【奈良・ならまち】関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜「MIA’S BREAD」Vol. 02
地元の人々に愛される関西各地のおいしいパン屋を、町の風景とともに紹介する大好評のパン連載。第2回は、奈良・東吉野村在住のフォトグラファー西岡 潔さんが町に出た時に必ず立ち寄る一軒。地元のみならず、全国にファンを持つ、奈良・ならまちにある「MIA’S BREAD」へ。
【関西パン百景】について
人気連載【関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜】とは?
パン好きが日頃、感じていることがある。それは、地元の人たちが、日々のパンを買いに訪れるおいしいパン屋がある町は、その町もまた魅力的だということ。そこで、関西在住の食に詳しい専門家や食いしん坊たちが、個人的に通う大好きなパン屋をレコメンド。店主が作るパンのことから、この町にパン屋を出した理由、店を構えて感じる町の魅力、おすすめスポットまで、サイドストーリーもあわせて紹介します!
01:天然酵母で作る無垢なパン
奈良・ならまち「MIA'S BREAD(ミアズブレッド)」
押してくれた人西岡 潔/Kiyoshi Nishioka
大阪出身、奈良・東吉野村在住のフォトグラファー。東京を拠点に活動していたが、奈良・東吉野村に魅了され、2017年に完全移住。現在は、緑深き村から各地に取材・撮影に赴く日々。仕事でおいしいものに出合う機会は多く、おいしい店、行きたい店のアドレスは増えるばかり。手がけた写真集に『気持ちのいい聖地 関西編』(青幻舎)などがある。
「MIA'S BREADには、6年前から通っています。天然酵母で作るパンが、そのままでも、野菜をはさんで食べてもおいしいんです。素朴でありながら、噛めば噛むほど味が出てくる。そして、元気をもらえるパンなんです」(西岡さん)
近鉄奈良駅から歩いて約15分ほど。商店街を抜けると、江戸末期から明治にかけての町家の面影が残る風情ある街並みが見えてきます。そう、この景観こそがならまち。カフェや雑貨店などが立ち並び、思わず寄り道したくなるけれど、「MIA'S BREAD」は界隈屈指の人気店。パンがなくならないうちに、急ぎましょう!
02:【歩み】自分のために焼いていたパンが、いつしか全国区に
「MIA'S BREAD」の店主は、森田三和さん。パンを焼き始めて、40年以上の月日が経ちますが、いまもMIA'S BREAD=三和さんのパンを求めて、開店直後から客は引きも切らず。東京など遠方から足を運ぶ人も少なくありません。そんな森田さんですが、パン屋を出したいと思ったことは一度もないといいます。
【PROFILE】森田 三和/Miwa Morita
MIA’S BREAD店主。奈良県奈良市生まれ。高校生のころから焼いていたパンに、いつしかファンがつき、1997年ごろ、奈良・西大寺の自宅を「MIA’S BREAD」として本格オープン。サンドイッチの販売やカフェの運営もはじめる。2017年、生まれ育ったならまちに移転。『ミアズブレッドのパンとサンドイッチ』(天然生活ブックス)、エッセイ『サンドイッチブルース』(ループ舎)など著書も多数。
パンを焼くと、心も体も元気になった!
「高校生のとき、引っ越した家に備え付けのオーブンがあったので」
パンを焼き始めたきっかけは他愛のないものでしたが、大阪芸術大学に入ると、一気にパン作りにのめり込みます。
「グラフィックデザインの勉強をしていたのですが、課題に行き詰まった時に気晴らしで焼いたパンがおいしくて、元気が出たんです。そうすると、デザインのイメージも湧いてきて、いい絵が描ける。パンを焼くことで生活にいい循環が生まれて、夢中で焼くようになりました」
とはいえ、40年近く前のこと。富澤商店のような材料店もまだまだ少なく、個人で手に入る材料は限られていましたが、そんなハンデもなんのその。オーガニックの小麦粉やレーズンなどを個人輸入して、自分だけのオリジナルなパンを目指して、オーブンに向かう日々。作っては、食べ切れないパンを友人に配るうち、だんだんと“買いたい”という人が増えてきて、注文を受けてパンを作るようになったそうです。そのとき、メニュー表に添えていた名前が、店名となっている“MIA'S BREAD”でした。
03:【歩み】田んぼの中の自宅が、パンの人気店に!
結婚して、西大寺の家へ引っ越してからも、注文はひっきりなし。そこで、第2子を出産後、自宅の一画に「MIA'S BREAD」をオープンします。場所は、駅から30分ほどの、周りにほかのお店などないところ。それでもお客さんは増えていき、やがてカフェも併設するように。
「このころは、深夜2時からパンを作り始めて、8時ぐらいに焼き上げて、それからサンドイッチを作って11時に店を開けて販売する。12時過ぎには売り切れてしまうので、そこからまた仕込み。生地をこねる機械を6台ぐらいおいて、毎日40~50種のパンを、それこそ寝る間もなく、ひとりで焼いていました。こんな仕事、誰もできひんやろなと思いましたけれど、お客さんから“こんなパン、初めて食べました”とか“三和さんのパンを食べると元気になる”と言われると、やめられませんでした」
04:【なぜ、この町?】生まれ育った“ならまち”へ
そんな毎日が20年ほど続いたころ、家庭の事情で引っ越しを余儀なくされます。そのとき、森田さんは、迷うことなく、移転先にならまちを選びました。
「自分が生まれ育った馴染深い場所ですし。私がパンを焼き始めたとき、配っていたのは、このあたりに住む友人たちでしたから、なんとかなるかなぁ、と」
現在は、サンドイッチ作りに専念し、パン作りはベイカーに任せています。
「50歳を過ぎたあたりから、先のことを思うようになりました。この仕事を長く続けていくにはどうしたらいいかを考えた時、自分ひとりで焼くのは不可能だと思ったんです」
なにより、60歳になった森田さんには、まだまだやりたいことがあるといいます。そのひとつが開発したパン作りキットの販売や、パン作りのワークショップです。
「買うだけでなく、パンを自分で作るとこんなに元気になるんだよ、楽しいんだよ、と。自分のパン作りの原点である体験をもっと、もっと広めていきたい。それがこれからのライフワークかな」
ならまちは、父が旅館を営んでいた思い入れのある場所だから
「実は、この近くに父が営んでいた旅館があったんです。いまはもう、旅館も家もなくなってしまいましたけれど、いつか戻ってきたいと思っていました。天国で父も喜んでくれているかな。西大寺の自宅で店をやっていた時も、商売の神様が、父から自分に来てくれたような感覚があって、それで苦しいときも乗り切れた気がします」
ならまちに移転してきたころは、パン屋は界隈にはあまりなかったそう。いまはパン屋も増えたので、「うちが休みでも、ほかにパンを買える店が何軒もあるので、気がラクです」と、森田さんはどこまでもおおらかです。
05:【人気の秘密】どんな具にも合うごはんみたいなパン
現在、店頭に並ぶパンは30~40種。具材を加えてアレンジはしているものの、ベースとなる生地は、パンを焼き始めたころから、ほとんど変わっていないといいます。
小麦粉の味を活かすため、卵は使っていません。バターが入るパンもほんの数種で、ほぼバターも使いません。野菜と一緒に食べるとおいしくなるような、ごはんみたいなパンにしたかったので、塩気も甘みも控え目です
生地自体の材料は、小麦粉と酵母、ほんの少しの油分と塩、砂糖だけ。粉は、国産などいろいろ試した結果、主にカナダ産のものを使っています。
「ほかの店にリサーチに行くくらいなら、自分が食べたいパンを考えます」と言い切る森田さん。最近、よく見かけるようになった、具をモリモリにはさんだサンドイッチも、生地をくるんと巻いた“巻きパン”も、何十年も前から焼き続けています。今後は、パンを焼き始めたころに作っていたものの、当時は人気が出なくてやめてしまった雑穀を使ったパンを復活させようと考えています。
06:【人気の秘密】地元の恵みをサンドイッチで
サンドイッチの著書も数多い森田さん。MIA'Sのもうひとつの看板アイテムですが、もともとは、MIA'Sのパンをよりおいしく食べてもらうための提案だったといいます。シンプルなパンゆえ、どんな具材とも合いますが、中でも野菜との相性は抜群。野菜は近所の八百屋さんから仕入れていますが、なるべく地元・奈良産の野菜を選ぶようにしているそうです。
★推しパン★レコメンダー西岡さんの3選
西岡さんの推しパンその1 「天然酵母イングリッシュマフィン」
「シンプルだけど、焼くと風味が増します。そのままでも充分おいしいですが、ハムやチーズをはさんでも、ジャムをサンドして甘くしてもいけます」(西岡さん)
セルクル型を使うのではなく、手で成形した、ちょっとおやきみたいな素朴な形がMIA'S流。2番目にレシピが完成したというこのアイテムは、やさしい、しっとりした食感が特徴的。
西岡さんの推しパンその2「ゴマチーズベーグル」
「ゴマの香ばしさとチーズのコクが食欲をそそるので、あっという間に食べてしまいます。お酒にも合いますよ」(西岡さん)
茹でてから焼くベーグルは、みっしりとした生地と弾力が持ち味。MIA'S流は、ベーグルらしい弾力がありながらも、そこまでずしりと重くないので食べやすい。ゴマとチーズを焼き込んだこれは、ベーグルらしからぬ形がオリジナル。サンドイッチにしてもおいしいそう。
西岡さんの推しパンその3 「チョコとマカダミアナッツのフランスパン」
「しっかりとした歯応えの生地と、チョコとナッツが利いていて、これひとつで満足感があります」(西岡さん)
ならまちに移って、パン作りをベイカーに任せるようになって始めたというフランスパン。クーベルチュールチョコレートとマカダミアナッツを贅沢に使っていて、噛み応えも食べ応えもたっぷり!
★推しパン★店主・森田さんの2選
森田さんの推しパンその1 「じゃがいものミニローフ」
「目玉焼きひとつのせれば、いい感じの朝ごはんになるし、いまの自分にぴったりのサイズ。私がいちばん好きなパンです」(森田さん)
イギリスパンの生地に、マッシュしたジャガイモを練り込んで焼いてあり、ときどき歯にあたるジャガイモの食感が新鮮です。
森田さんの推しパンその2「レーズン入りクリームチーズの巻きパン」
「このパン、すごい人気なんです。巻きパンは、何十年も焼き続けているパンで、いま流行っている塩パンの原型という噂もあります(笑)」(森田さん)
MIA'Sのプレーンな生地でバターをクルクルと巻いて焼き上げるコクのある巻きパン。これは生地にさらにクリームチーズを練り込み、レーズンを散らして焼き上げてあり、味わい豊か。
Address奈良県奈良市勝南院町2
DATAMIA'S BREAD ならまち本店
TEL: 0742-27-0038
営業時間:8:00~16:00(売り切れ次第終了)
定休日:月火水
https://www.miasbread.com/
09:大好きな、ならまちの店
ならまちを愛する森田さんに、お気に入りのお店&スポットについて伺いました。
パン作りを支えてくれる「NAOT」の靴
イスラエル発の老舗シューズブランド「NAOT」の革靴を扱う本店が、ならまちにあります。森田さんは、この町に移転してくる前から、この靴のファンだといいます。
「お店を始めて10年ぐらい、腰を痛めてしまったころに出合いました。履いていてまったく疲れないので、腰がずいぶんラクになりました。長時間立ち仕事をしている人間にとって、いかに足元が大切かを教えてくれた靴です。以来、運動靴以外はほとんどNAOTさんにお世話になっています」(森田さん)
この日も森田さんの足を包んでいたのは、もちろんNAOTさんの靴でした。
人間工学に基づいて設計されたというインソールは、森田さんの言葉どおり、足裏にフィットして、裸足よりも歩きやすいと感じるほど。履くほどに足に馴染み、風合いが増してきそうな、まさに長く育てたくなるような靴が並んでいます。
また、ショップでは1年ほど前からオリジナルブランドのアパレル「entwa」や革小物も展開中で、NAOTの靴同様、着心地のよさそうな良質な素材、シンプルなデザインの服がディスプレイされています。
Address奈良県奈良市芝突抜町8-1
DATANAOT NARA/entwa (ナオト ナラ/エントワ)
TEL:0742-93-7786
営業時間:11:00~日没
定休日:月
カフェになくてはならない「カウリ」の器
カウリとは、ニュージーランドが誇る“”神の森”と呼ばれる巨木のこと。木が大好きだという店主、中内禄子さんが、そう名付けて、2010年に構えた器と雑貨の店です。森田さんは、ならまちに移転してきてから、「カウリ」の器を使うようになったといいます。
「サンドイッチをのせている皿など、カフェで使っている器は、ほぼカウリさんのもの。家でも使っていますよ。中内さんの扱う器は風合いが好きで、特に木皿は割れないので、重宝しています」
カウリには、使っていると、ほっと気持ちがやわらぐような、温もりのある陶器や木の器が並びます。MIA'Sでサンドイッチをのせている木の絵皿は、奈良に隣接する京都府南山城村で制作している木工作家の宮内知子さん作。奈良をイメージして制作してもらったというオリジナルで、鹿や大仏の絵を彫って、漆で埋めているそうです。
また、森田さんが家でよく使っているのが、奈良の生駒に工房を持つ陶の作家、大野素子さんの器。店主の中内さんも大好きな作家のひとりだそうで、店頭にしばしば新作がお目見えします。
Address奈良県奈良市鳴川町1
DATAカウリ
TEL:0742-93-9208
営業時間:11:00~18:00
定休日:インスタグラム参照
https://www.instagram.com/zakka_kauri/
慣れ親しんだ奈良公園と大好きな二月堂
お店があるならまちは、鹿がのどかに過ごす奈良公園の南西側に位置します。子供のころには、ランドセルを放り出して向かう遊び場だったという奈良公園は、いまも森田さんが変わらずほっとする場所。そして、もうひとつ、東大寺の二月堂。清水の舞台にちょっと似たここは、奈良の街並みを眼下に、美しい夕日が見られる絶景スポットとしても知られるところ。お店での仕事を終えて、ここでゆっくりと陽が沈んでいくのを眺めるひとときは、唯一無二だそうです。
\from Editor/
ならまちは、何度か訪れていますが、行くたびに新しいショップができています。でも、変化しているはずなのに、街の風情はそのままで、以前と変わらぬ落ち着きを湛えているのが不思議。京都より、さらにゆったりと時間が流れているような気がします。MIA'S BREADはじめ、出会ったショップの人々の、自分のペースで仕事をし、暮らす姿が、そうした空気を作っているのか、それとも、そういう人々が集まって町の空気を作っているのかな。
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