【新連載!】関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜【神戸・御影】Vol. 01
地元の人々に愛される関西各地のパン屋を、その町の魅力とともに紹介するパンの連載が始まります。「ローカルだけど実力派」のパン屋を教えてくれるのは、関西在住の食の専門家や食いしん坊たち。第1回は、フードエディターの船井香緒里さんが推す店を訪ねて、神戸・御影へ。
【関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜】とは?
パン好きが日頃、感じていることがある。それは、地元の人たちが、日々のパンを買いに訪れるおいしいパン屋がある町は、その町もまた魅力的だということ。そこで、関西在住の食に詳しい専門家や食いしん坊たちが、個人的に通う大好きなパン屋をレコメンド。店主が作るパンのことから、この町にパン屋を出した理由、店を構えて感じる町の魅力、おすすめスポットまで、サイドストーリーもあわせて紹介します!
01:日常に寄り添うパン屋
神戸「ブーランジェリービアンヴニュ 御影本店」
押してくれた人船井香緒里/Kaori Funai
大阪在住のフードエディター。『あまから手帖』『dancyu』『BRUTUS』などの雑誌で食企画の編集やライティングを行うほか、Webコンテンツの編集も。スイーツとお酒、美味しいものをこよなく愛し、週末のジョギングとロードバイクで健康維持。
「“普通に美味しい”が一番」と、店主の大下尚志シェフが言うように、毎日通いたい、食べたいパンがズラリ。おすすめを挙げ出したらきりがないのですが、クロワッサン、本気の練乳クリーム、クロックムッシュは、必ず購入するパンです。パン屋のシェフが考えた特製のジャムも絶品です」(船井さん)
神戸・御影は、緑が残る落ち着いた住宅街。阪急・神戸本線の御影駅から少し歩けば、「御影ダンケ」「神戸にしむら珈琲店 御影店」といった名カフェがぽつぽつとあります。山手幹線に出れば、お菓子好きの間で有名な「マモン・エ・フィーユ」があり、目指すパン屋はその先に。
02:元サッカー少年がパン職人に
【PROFILE】
大下尚志(Takashi Oshita)/「ブーランジェリー ビアンヴニュ 御影本店」シェフブーランジェ。1976年、京都府京都市生まれ。芦屋「ビゴの店」からパンの世界に入り、「神戸北野ホテル」「モンシェール」のパン部門を経て、2012年に同店オープン。2016年には、お菓子や甘いパンを中心にした2号店「ブーランジェリー ビアンヴニュ コフレ」を六甲にオープンする。
あえて“パン不毛の地”へ
店先で待っていると「お待たせしました~」と、配達に出かけていた大下さんが、元気いっぱい、 ミニバンで戻ってきました。入れ代わり立ち代わり客が来店する風景を眺めながら、“パン好きの住人が多そうな街ですね”と声をかけると「いえ、実は、かつてはパン屋の不毛地帯だったんですよ」と、意外な答えが。でも、だからこそ、ここに店を構えたのだといいます。
そのワケは、後程。まずはパンの世界に入った経緯から。実は大下さん、高校までは強豪校で練習漬けの日々を送っていたゴリゴリのサッカー少年で、よもやパン職人になるとは思っていなかったそうです。「でも、後から考えてみれば、小さいころ、父の仕事のお供でよくパン屋さんに行っていたんです。ベーコン入りのフランスパンやクリームパン……いろいろ買ってもらって食べるのが楽しみでした。その記憶が大きかったのかなぁ」とのこと。高校卒業後に入った料理の専門学校で「仕込みから焼き上がりまで、ひとりですべての工程にかかわれる」パン作りに魅了され、芦屋の名店「ビゴの店」に入ります。
ビゴさんから教わったこと
「ビゴの店」のフィリップ・ビゴ氏といえば、フランスパンを日本に普及させた立役者です。そんな氏の下で、パン作りの基礎を叩き込まれた大下さん。「とにかく厳しくて、僕もずいぶん怒られました。でも“サッカーの練習より、まだマシやわ”と思って働いていたら、6年が過ぎていました」。いまも心に残っているビゴ氏の教えがあるそうです。「みんなが毎日、食べるものだから、昨日は100点のパンが焼けたけど、今日は0点ではよくない。つねに70~80点以上のパンを焼き続けなさいということ。実はこれが難しいんですけれど」。
大下さんはその後、神戸北野ホテルに入り、ブティック「イグレック・プリュス」の立ち上げを任され、9年間働きます。「このころから、ビゴさんに習った配合をベースに、自分の個性を出すようになりました」。さらに“堂島ロール”で知られる「モンシェール」のパン部門の責任者として中国・上海に渡り、2年間を過ごします。
行列店にはしたくなかった
そして、2012年8月、待望の自店を神戸・御影にオープンしました。「店を始める時は“なんで御影なの?”と、ずいぶん言われました。当時は店もあまりなくて、有名どころが出店しても撤退してしまう、パン屋にとってはNGエリアだったんです。たしかに、三宮や元町などの繁華街に出せば、話題になって、お客さんがたくさん来るかもしれませんが、それは望んでいませんでした。よくパンを買うのに行列したり、午前中には売り切れたりしてしまう店がありますよね。僕は、それがイヤだったんです」
大下さんが目指したのは「今日、パンが食べたいな」と思った時に、ふらっと立ち寄って当たり前に買える店。「パンは毎日食べる、日常のもの。だから、日常に寄り添うパン屋にしたかったんです」。御影での出店に対する周囲の心配をよそに、お店は口コミで少しずつ評判が広がって、2年ほどで軌道に乗ったといいます。いまでは「いつもの」パンを買いにやってくるリピーターが多いとか。
03:体にやさしい日々のパン
サンドイッチの具も自家製
毎日食べてほしいから「インパクトのある“特別においしい”パンではなく、毎日食べられるやさしい味の、シンプルにおいしいパン」を心がけているという大下さん。だからこそ、材料にはとことん気を遣います。
「うちは、あんことカレー以外はすべて自家製。その2つももちろんこだわって選んでいますし、サンドイッチの具にする卵は、地元の丹波鶏の卵を使っています。パンには、保存料や添加物はいっさい入っていません。欠かせない材料である油脂も、マーガリンやショートニングなどの加工油脂は使わず、すべて国産バターで作っています」という、大下さん。それなのに、パンは100円台から揃うのだから、その努力には頭が下がるばかりです。
地元アスリート御用達のパン
地元の人によく売れるのは、やはり食パン。ニーズにあわせて、プレーンな「M1(=御影1丁目)食パン」から、もちもち食感好きのための湯種を使った「みかげもっちりん」、健康志向の人向けの「雑穀食パン」、「レーズン食パン」まで多彩に揃う。
中でも、オーツ麦やひまわりの種、亜麻仁など雑穀を混ぜ込みながら、香ばしく食べやすく仕上げた「雑穀食パン」は、地元のプロスポーツ選手御用達。神戸はスポーツが盛んで、サッカーの「ヴィッセル神戸」や女子サッカーの「INAC神戸 レオネッサ」、ラグビーの「コベルコ神戸スティーラーズ」など、ここを本拠地にするプロチームも多い。そうしたチームに所属する、健康への意識が高い国内外のプレーヤーの多くもまた、このお店のパンの常連客なのです。
04:レコメンダー船井さんの推しパン「このパンが、外せない!」
船井さんの推しパン/その1:「本気の練乳クリーム」
「パンに、師匠・ビゴさん直伝のバゲットを使っていて、中に北海道産無塩バターと加糖練乳だけで作った自家製クリームを搾ってあります」(船井さん)
歯応えのある淡泊な生地と、濃厚でやわらかいクリームのコントラストがクセになるおいしさです!
船井さんの推しパン/その2:「クロックムッシュ」
「ビアンヴニュで人気のM1食パンに自家製ベシャメルソースとチーズ、ベーコンを挟んであります」(船井さん)
炊くのに手間暇がかかるベシャメルソースまで自家製というのが驚き。買って帰ったら、ぜひリベイクしてどうぞ。たっぷり入ったソースがとろりとして、パリのブラッスリーを思わせる味わいです。
船井さんの推しパン/その3:「クロワッサン」
「北海道産のよつ葉バターを使って、丁寧に折り込んであります」(船井さん)
三つ折りを3回、基本に忠実に作っているという折り込み生地は、層の浮きが美しく、たっぷりバターを使っていながら、油っぽさをまったく感じさせない。惣菜でも、甘いものをサンドしてもいけるおいしさです。
05:大下シェフのおすすめ「これは、食べて欲しい」
大下さんが薦める、師匠ビゴ氏直伝のバゲットは2種。そのうちのひとつ「バゲットH」は「生地を冷蔵庫で12時間、低温長時間発酵させて、より小麦粉の風味を引き出しています」と、手間暇かかっているもの。もっちりしつつ、歯切れもよく、1日60本以上売れるというのも納得のクオリティ。
「コンクールで賞をいただいた思い出深い商品です。ギフトとして買ってくださるお客さんも多いですね」。パン屋にとって大切な生地のひとつ、卵とバターが入るブリオッシュ生地にオレンジピールを贅沢に混ぜ込み、クグロフ型で焼き上げたもので、上面にはコアントロー(オレンジのリキュール)風味のアイシング。パウンドケーキとは違う、イーストで膨らませた、リッチな生地のおいしさが堪能できます。
Address兵庫県神戸市東灘区御影1-16-15 エクセレンス御影1F
DATAブーランジェリー ビアンヴニュ 御影本店/Boulangerie Bienvenue
TEL:078-771-2866
営業時間:8:00~19:00
定休日:日曜
https://www.instagram.com/boulangeriebienvenue/
06:大下さんに聞く「御影」のおすすめスポット
元プロサッカー選手、酒井高聖さんが営む「Alster&Garten」
神戸をホームグラウンドに長年パンを焼いてきた大下さん。自店をオープンしてからは職住近接で、御影の住人になった。毎朝6時半にはお店に入ってパンを作り、製造が一段落すれば、今度は配達と慌ただしく時間が過ぎます。そして、ようやく、ひと息つけるようになった午後のひとときを過ごすのが、カフェ「Alster&Garten」です。
2022年11月にオープンしたばかりのこの店は「アルビレックス新潟」やドイツリーグでプレーした元プロサッカー選手、酒井高聖さんが「ヴィッセル神戸」でプレーする兄の酒井高徳さんとともに営むカフェ。ドイツ・ハンブルクにあるアルスター湖をイメージした店内には、自分たちでセレクトしたというヴィンテージの家具や緑がセンスよく配置され「静かで落ち着ける空間なので、とても寛げる。毎日のように来ています」と、大下さん。
力を入れているのは、ハンドドリップで淹れる、すっきりとした味わいのシングルオリジンコーヒー。深煎りのコーヒーを出すカフェが多い界隈では貴重な存在。大下さんの「いつもの」は、牛乳の代わりに、体にやさしいオーツミルクを使ったカフェラテ、オーツミルクラテです。
コーヒーにあわせた軽食やスイーツのメニューも揃っていて、すべて酒井さんが店のスタッフと考案しているそう。「ブーランジェリー ビアンヴニュ」の雑穀食パンを使ったトーストメニューは、ハムチーズから、カレー、アンコバターまで豊富ですよ!
Address兵庫県神戸市東灘区御影1-14-25 メビウスビルB1
DATAAlster&Garten /アルスターガーテン
TEL: 078-862-5578
営業時間:8:00~16:30LO
不定休
https://www.instagram.com/alstergarten/
愛する御影の散歩道
お店のすぐそばには、東灘区と灘区の区境を流れる石屋川があります。大下さんが仕事の合間によく散歩をするのが、その川沿い1.5キロに渡って遊歩道が続く石屋川公園。「桜の木が植えられていて、春になると、桜並木が本当にきれい。秋には紅葉が色づきますし、四季折々の景色があって、考え事をしたい時にもいいんですよ」。お店を訪れたついでに立ち寄りたいですね。
07:anna 編集部&スタッフの「御影」ってこんな町!
御影の魅力を、anna 編集部&スタッフにASK! ご近所から、他府県から、リアルボイスをお届け。
「暮らすように、おいしいもの巡りができる町です」フードエディター・船井さん
「上質なうまいもんがある大人のオアシス」ライター・齋藤さん
「阪急御影駅の徒歩すぐのところに「深田池公園」(写真上)があります。お散歩がてら、“ピクニックパン”するのも気持ち良さそう&楽しそう!」anna 編集S
「歴史も古くて静か。程よい距離に自然環境もあり住みやすい地域ですよね」フォトグラファー・西岡さん
\from Editor/
御影は、落ち着いた大人な街だなぁと改めて実感。大下さんがこの町を選んだ理由がよくわかりました。それにしても、昼すぎにふらっと足を運んでも、こんなハイクオリティのパンが買えるのだから、御影の人は幸せ者。今度来る時は、ここでパンを買って「マモン・エ・フィーユ」でお菓子買って「アルスターガーテン」でコーヒーを飲んで帰ろっと心に誓った食いしん坊でした。
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