TOP パン レトロな商店街で愛される、挽きたて小麦の全粒粉パン【関西パン百景】

レトロな商店街で愛される、挽きたて小麦の全粒粉パン【関西パン百景】

地元の人々に愛される関西各地のパン屋を、その町の魅力とともに紹介するパン連載。第4回となる今回は、どこか懐かしい昭和の風情が漂う京都の三条会商店街へ。京都在住のライター、齋藤優子さんが、自家製粉にこだわる「実力派」の一軒を教えてくれました。

01:毎日食べてほしいから、この商店街へ

京都・三条会商店街「panscape/パンスケープ」

昔ながらの商店街を歩いていると、ガラス越しに目に飛び込んでくる「パンスケープ」のディスプレイ。
全粒粉を使っていながら、ハード系のみならず、クロワッサンやテーブルロール、甘いパンまで多彩に揃うのが専門店ならでは。

「挽きたてのそば粉で作るそばが、精米したてのお米で炊いたごはんがおいしいように、挽きたての小麦粉で作るパンは、香りと風味が格別。それを改めて感じさせてくれる全粒粉パンの専門店です。そう聞くと、ずしりと重い、硬めのパンばかりを想像するかもしれませんが、実はふんわりやわらかくて、おやつに食べたくなるようなアイテムも多く揃っているところが好きです」(齋藤優子さん)

京都三条会商店街は、堀川三条から千本三条まで続く昭和レトロな雰囲気漂う、地元密着型の商店街。東西に800メートル伸びるアーケード内には、古い定食屋や商店に混じって、新しいカフェやパティスリーもポツポツと。そのちょうど中ほどに「パンスケープ」はあります。

日本各地から小麦を、精白していない玄麦(げんばく)の状態で仕入れ、石臼で挽いて全粒粉にしています。そして、その挽きたての全粒粉をすべてのパンに使って、焼いています。

推してくれた人齋藤優子/Yuko Saito

『BRUTUS』『&Premium』など、雑誌を中心に執筆しているライター。食に関する取材が多く、しばしば関西を訪れているうちに、関東とは違う食文化をもっと知りたくなり、2018年に京都にも拠点を設ける。現在は京都と東京を行ったり来たりの日々。

02:小麦の全粒粉に出合い、ベーカリーをオープン

取材時、店主の久保哲也さんは大阪に。オープン当初は、商店街を通る人に「ヘンなパンを焼いてるなぁ」と言われたこともあると、夫人の美樹さんは懐かしそうに振り返ります。

「全粒粉のパンを、特別なものではなく、日々のパンにしてほしかった。毎日食べて健康になってほしいとの思いから、地元の方が買い物で行き交うこの場所を選びました」

店主の久保哲也さんが近くに住んでいたことがあり、商店街の雰囲気を気に入っていたことも、この場所を選んだ理由のひとつだそうです。久保さんは、麩屋町三条で10年ほどカフェを営んでいたときから自家製パンを提供。2009年、現在の場所にベーカリーを構え、1年後に二条店を、2020年には全粒粉パンを使ったサンドイッチ専門店を大阪にオープンしています。

風味豊かで身体にもいい、全粒粉パンに魅せられて

商品のポップには、パンによって、20%、50%など、全粒粉の配合が記されています。もちろん、100%のパンも!

20代の頃からパンを焼いていたという久保さん。その後、市内で営んでいたカフェを立ち退きで閉店することになったとき、頭に浮かんだのがベーカリーをオープンすることでした。そして、コンセプトを模索していたころ、石臼挽きの全粒粉に出合ったといいます。

全粒粉は、表皮、胚芽、胚乳も含め、まるごと粉砕しているので、ふつうの小麦粉に比べて、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富。小麦の香りや風味が豊かなだけでなく、身体にもいいことがわかり、全粒粉パンの専門店にしようと決意します。

当初は珍しいものを見るように眺められていた全粒粉パン

パンによって挽き方も変えているという全粒粉入りパンは、45~50種ほど。

とはいえ、ふつうの小麦粉に比べてグルテンを形成しにくく、膨らみづらい。最初のころは、思うように仕上がらず、硬くなってしまったり、焼き色が強すぎたりすることもしばしば。道行く人から「黒いパンばっかりなんやな」と言われることもあったそうです。それでも日進月歩。いまでは、全粒粉か否かにかかわらず「おいしいパンやな」と買いに訪れてくれる人が多いといいます。

配合も食感もバラエティ豊かに揃うのが魅力

食パンは、目につきやすい正面の棚にディスプレイ。角食、湯種、ハード、天然酵母のプレーンとレーズンの5種が並ぶ。

小麦粉はすべて国産。地元の亀岡をはじめ、北海道、福岡など各地から玄麦の状態で取り寄せ、毎日、店内の石臼で挽いて全粒粉にしています。パンによって、粗め、細かめなど挽き方も変えています。石臼にこだわるのは、ゆっくり挽くことで摩擦熱が起こりにくく、小麦の風味や香りがとびにくいこと。自家製粉が間に合わない時でも、仕入れるのは、石臼挽きの粉。そして、発酵時間や配合を変えて、硬めあり、やわらかめあり、多彩な食感のパンに焼き上げています。

現在は、バターの代わりにココナッツオイルや豆乳バターを使った全粒粉の「ヴィーガンブレッド」や、“もち大麦”を使った大麦パン「オルジュ」など、新たな全粒粉パンの開発にも積極的に挑んでいます。

★推しパン★
レコメンダー齋藤さんが選ぶ3選

今回「パンスケープ」を推してくれたライター、齋藤優子さんにおすすめのパンを伺いました。全粒粉パンの未来を感じさせる、必食の3つを紹介します。

齋藤さんの推しパン
その1「はちみつバターサンド」

「はちみつバターサンド」214円

「噛み応えのあるしっかりした食感のパンに、バターとはちみつをサンドしてあります。噛むほどに小麦の風味が広がって、バターのコクとはちみつの甘さが追ってくる。たまらないおいしさです」(齋藤さん)

北海道産小麦を主体に、石臼挽き全粒粉を20%配合し、低温長時間発酵させたバゲット生地を使用。そこにシンプルにはちみつとバターを挟んであります。

齋藤さんの推しパン
その2「カカオニブ ショコラクリーム」

「カカオニブ ショコラクリーム」286円

「ほかにはない大人のチョコレートパン。全粒粉の風味たっぷりのやや硬めの生地と、クーベルチュールから作った本格的なチョコカスタードの、意外な相性の良さが印象的です。ほろ苦いカカオニブが、小気味よい味と食感のアクセントに」(齋藤さん)

2023年に登場した新作。全粒粉50%のやや硬めの菓子パン生地に、フランス産のクーベルチュールを使ったカスタードクリームをサンド。オーガニックのカカオニブをトッピングしてあります。

齋藤さんの推しパン
その3「スコーン」

「スコーン」226円

「粗めに挽かれた全粒粉の香りと食感、ざっくり焼いた風合いが好み。さっとあぶって、半分に割って、バターをたっぷりのせると最高です」(齋藤さん)

粗く挽いた全粒粉を20%配合し、卵やバターをたっぷり使った贅沢な生地を使用。それを高温で焼き上げたスコーンは、人気の定番商品です。

パンスケープ 京都三条本店

京都府京都市中京区三条通神泉苑西入今新在家西町19
TEL:075-821-9355
営業時間:10:00~売り切れ次第終了
定休日:火・水
https://panscape-kyoto.jp/

03:久保美樹さんが教えてくれた、「三条会商店街」のお気に入りスポット

三条堀川から続くアーケード。入口近くには、注文してからコロッケやハムカツを揚げてくれるお肉屋さんがあったり、行列ができるパティスリーがあったり、地元密着型ながら人気の飲食店も多い。

KAMEE COFFEE

「ご近所なので、コーヒーを買いに。ほとんど休憩できないので、本格的なコーヒーが気軽にテイクアウトできるので助かっています」(久保美樹さん)

エスプレッソマシーン、ドリップ、サイフォンと、3つの淹れ方で楽しめるコーヒーをはじめ、沖縄フードやスイーツも揃う。すべてテイクアウトできる使い勝手の良さも人気です。

>KAMEE COFFEE

碓屋

「『パンスケープ』にもよく買いに来てくださる常連さんが、うちの後に、同じ三条会商店街に出された日本料理店。鰻がとてもおいしいんです! 日本酒に合うお料理がおすすめです」(久保美樹さん)

大阪で長く鰻職人をしていた店主が、三河一色産の鰻を提供。2段のお重で提供されるオリジナルのう飯重が人気。

>碓屋

【関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜】とは?

パン好きが日頃、感じていることがある。それは、地元の人たちが、日々のパンを買いに訪れるおいしいパン屋がある町は、その町もまた魅力的だということ。そこで、関西在住の食に詳しい専門家や食いしん坊たちが、個人的に通う大好きなパン屋をレコメンド。店主が作るパンのことから、この町にパン屋を出した理由、店を構えて感じる町の魅力、おすすめスポットまで、サイドストーリーもあわせて紹介します!

「パンスケープ」の推しパンコレクション

「関西パン百景」連載一覧

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