TOP パン “懐かしパン”から本格派まで。生地のおいしさに驚く、気鋭のパン屋さん【関西パン百景】

“懐かしパン”から本格派まで。生地のおいしさに驚く、気鋭のパン屋さん【関西パン百景】

地元の人々に愛される関西各地のパン屋さんを、その町の魅力とともに紹介するパン連載。第3回となる今回は、大阪・梅田から大川を越えて都島へ。大阪在住のフォトグラファー・東谷幸一さんが、仕事帰りによく立ち寄るという、「ローカルだけど実力派」の一軒を教えてくれました。

01:生地のおいしさに心掴まれる

大阪・都島「三好パン」

白壁に控え目に「三好パン」の4文字。対面式の小さな店は、内装もとてもシンプル。
本格派のバゲットから、あんぱん、クリームパン、ドーナツまで、40種あまりのパンが並びます。月曜と土曜には、クロワッサンやパン・オ・ショコラも店頭に。

「いろいろな種類のパンが偏りなく揃っていて、一箇所のショーケースに並んでいるから、選びやすい。バゲットなど、本格的なハード系のパンがおいしいのはもちろんですが、昔ながらの町のパン屋さんにあるようなアイテムが、今風にブラッシュアップされていて、そのあたりが個人的に気に入っているところです。仕事帰りに立ち寄りやすい場所にあるのも、通う理由のひとつです」(東谷幸一さん)

推してくれた人東谷幸一/Koichi Higashiya

大阪生まれ、大阪在住のフォトグラファー。食や旅などを中心に、『あまから手帖』をはじめとする雑誌や書籍(料理のレシピ本)、広告などで幅広く活躍。料理は食べるのも作るのも大好きで、フライパンや鍋も多数、所持。日課は、ぬか床の手入れとギター演奏。

大阪メトロ谷町線で東梅田駅から3つ目。都島駅を降りて5分ほど歩くと、製紙工場の跡地に高層マンションが立ち並ぶ住宅地が見えてきます。その向かいにポツンと、目指す「三好パン」は、ありました。

小さな対面式の店ですが、マンションの住人と思しき客が、自転車で、犬を連れて、入れ替わり立ち替わりやってきては、勝手知ったる様子でパンを買っていきます。

02:【作る人】パン生地をこねる作業に魅せられて

店主の三好さんの思い出のパンは、高校時代、同級生の家で食べた厚切りトースト。それまで、食パンを家でスライスして食べる習慣がなかっただけに記憶に残ったそう。

「都島は、実は、隠れたパンの激戦区なんです。住人が増えているからでしょうか。私がこの店をオープンしたときには、界隈にパン屋さんは1軒しかなかったのですが、いまは10軒ほどに増えました」

それまでは馴染みがなかったという都島に、2015年に店を構えて、はや9年目。店主の三好さとこさんは、ライバル店が増えても、気負うことなく、自身のペースで店を営んでいます。

PROFILE三好さとこ/Satoko Miyoshi

三好パン店主。大阪府守口市生まれ。大手パンメーカーを経て、大阪の名店「青い麦」、「ブーランジュリー パリゴ」などで経験を積み、2015年、都島に自店をオープン。「青い麦」時代の同僚と二人三脚で店を営んでいます。

建築家志望から一転、パンの世界へ

低温長時間発酵で小麦の香りを引き出したバゲット1本280円。オリーブ入り、くるみ入りなども。

三好さんがパンの世界に入った理由は、ちょっとユニークです。建築関係の仕事につきたいと専門の学校に通っていた時、ふと、「セメントをこねる作業とパン生地をこねる作業は同じなのでは?」と、パン作りに興味を抱きます。

そして、大手のパンメーカーでパン作りを経験。その思いが確信に変わり、パン職人になろうと心に決めます。「いまでもそうですが、パンが好きというより、パン生地をこねたり、成形したり、生地に向き合っている時間がなにより好きなんですね」

製パン界の重鎮の下で、パン生地の扱いを一から学ぶ

師匠直伝ダッチブールの生地で作る、あんフランス200円。フランスパン生地に米粉を発酵させたパリパリの生地をのせて焼いていて、独特の食感。中には自家製の粒あんが。

その後、当時、福盛幸一氏が営んでいた「青い麦」に入ります。福盛氏といえば、日本にフランスパンの技術を伝えたレイモン・カルヴェル氏の弟子として知られる製パン界の重鎮。福盛氏が作るパン生地のおいしさに、著書に、感銘を受けて修業先に決めたそうですが、それはそれは厳しかったと言います。

「私がいた当時は、パンが50種類あれば、50種類すべて異なる生地を仕込んでいました。“レシピだけをなぞっても、同じようには作れないよ”、と。こね方、のし方、まるめ方……、パン生地の扱い方を一から教わりました」

「青い麦」で7年間学んだ後、そこで先輩だった安倍竜三氏の「ブーランジュリー パリゴ」でも経験を積み、ついに独立。

作りたかったのは、食パンが売れる店

食パンは、目につきやすい正面の棚にディスプレイ。角食、湯種、ハード、天然酵母のプレーンとレーズンの5種が並ぶ。

独立を決意した三好さんは、これまで働いてきた店と、出身地である守口市の間のエリアで物件を探し、2015年2月、都島に店を構えました。目指したのは「食パンが売れる店」。現在は酵母や小麦粉を変えて、5種類が並びます。その食パン、ハード系から、スイーツ、惣菜系まで、おいしさが際立つパン生地は、すべて三好さんが、毎朝5時に起きてひとりで作っています。

菓子パンのクリームやカレーパンのカレー、焼き菓子類を手がけているのは、「青い麦」時代の同僚、正本沙織さん。オープンからずっと二人でやってきたので、あうんの呼吸で、生地にあう具材を作ってくれると言います。「私たちの生活の中心にパン作りがあり、近所の方の生活の一部にうちのパンがあってくれたら、それが理想。これからもこの場所で、一日でも長くパン生地と向き合っていきたい」。三好さんはそう思っています。

★推しパン★
レコメンダー東谷さんが選ぶ2選

今回「三好パン」を推してくれたフォトグラファー、東谷さんにおすすめのパンを伺いました。選んでくれたのは、懐かしくも新しい“親しみパン”の2つです。

東谷さんの推しパン
その1「カレーパン」

「カレーパン」260円。

「中のカレーが洋食店のような甘口タイプで、粗めと細かめのパン粉が混ざっているところが、食感に変化があって面白い」(東谷さん)

湯種を使った揚げパン生地を使用。子供でも食べられるようにと、甘口に仕立てたカレーを詰め、粗めと細かめのパン粉をブレンドしてまぶし、米油で揚げています。油っぽさを感じさせない、甘めの親しみやすい味に。

東谷さんの推しパン
その2「チョココルネ」

「チョココルネ」180円は、冬季限定。

「パン生地が本格的で、チョコ感が強いクリームとマッチしています」(東谷さん)

菓子パン用のしっかりとした生地に、製菓用のチョコレートを使った本格的なチョコレートクリームを詰めた、大人な味わい。

三好パン

大阪府大阪市都島区善源寺町1-10-12
営業時間:8:00~19:00(土日祝18:00)
定休日:火・金
https://www.instagram.com/miyoshibakery/

03:「都島」のお気に入りスポット

春には桜並木が見事な大川の河川敷

右手が梅田方面。川沿いを南下すると大阪城方面へ。近くには、建設当時、外国にも例がなかったという二重のアーチ橋「飛翔橋」がかかっています。

「少し歩くと大川の河川敷に出るんですが、川沿いに桜並木が続いていて、有名な”造幣局の桜の通り抜け”につながっているんです。桜の季節には、散歩するのにもってこいです」(三好さん)

休日前のひとときに杯を傾ける魚がおいしい店

日本酒とお食事「はちどり」

「お酒、中でも日本酒が好きなので、休みの前の日は、「日本酒とお食事 はちどり」によく行きます。「三好パン」の半年後にオープンした女性オーナーの店で、日本酒の品揃えもいいし、魚料理が抜群においしいんです。特に刺身ははずせません」(三好さん)

【関西パン百景 〜おいしいパン屋のある町へ〜】とは?

パン好きが日頃、感じていることがある。それは、地元の人たちが、日々のパンを買いに訪れるおいしいパン屋がある町は、その町もまた魅力的だということ。そこで、関西在住の食に詳しい専門家や食いしん坊たちが、個人的に通う大好きなパン屋をレコメンド。店主が作るパンのことから、この町にパン屋を出した理由、店を構えて感じる町の魅力、おすすめスポットまで、サイドストーリーもあわせて紹介します!

>「関西パン百景」連載一覧

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