たじま途中下車の旅~玄武洞駅~
兵庫県豊岡市赤石にある玄武洞公園は、毎年13~15万人が訪れる景勝地であり、山陰海岸ユネスコ世界ジオパークの主要な自然遺産でもあります。
そんな玄武洞公園と円山川をはさんで対岸にあるのが「JR玄武洞駅」です。
地域の名称ではなく、景勝地が駅の名前になっている但馬の中でもめずらしい駅と言えます。
今回は、駅を降りて、壮大な大地の歴史の足跡が残る玄武洞公園を散策してみましょう。
山陰海岸ユネスコ世界ジオパークとは?
「ジオパーク」とは、地球・大地(ジオ)と公園(パーク)を合わせてできた、大地を楽しく学べる公園です。
山陰海岸ユネスコ世界ジオパークは、京都府の丹後半島先の経ケ岬から鳥取県鳥取市の青谷町までの海沿いに220Km、内陸に30Kmの広い範囲となっています。玄武洞は、その中でも主要な自然遺産で、「地磁気逆転現象」を世界で初めて提唱するきっかけとなった場所として有名です。
玄武洞駅は、1912年(明治45)に、玄武洞仮停車場として開業、季節営業の臨時駅として旅客営業のみを行っていました。
1918年(大正7年)、通常営業の駅に格上げされ玄武洞駅となりました。
玄武洞駅の現在の駅舎は、1981年(昭和56)に改築されたものです。
玄武洞駅から県道を渡ると正面に渡し船乗り場が現れます。
渡し船は対岸にある玄武洞ミュージアムが運行しており10人乗りのモーターボートで対岸まで送迎していただくことができます。
城崎温泉駅や豊岡駅で乗り換える際に、玄武洞ミュージアムに連絡をすると玄武洞駅側に迎えに来ていただけます。
当日予約も可能で、1名から送迎していただけるようですよ!
渡し船について
予約:0796-23-3821(玄武洞ミュージアム)
詳細:渡し船リーフレット
玄武洞駅側の渡船乗り場から、対岸までは約7分間の短い船旅となります。
車で訪れるのも便利ですが、鉄道を利用して渡船で渡るのも美しい円山川の風景や、独特な生態系が生み出されている中州の「ひのそ島」、円山川から見る玄武洞など、車では見れない景色を味わうことができますね。
また、玄武洞ミュージアムでは、円山川の自然をゆっくりながめることのできるミニ遊覧船も運行されています。
円山川ミニ遊覧船
遊覧船リーフレット
【関連記事】玄武洞ミュージアム・円山川ミニ遊覧船に乗ってみた!
渡し船は、駅の開設に合わせ地区の青年会によってはじめられました。
駅ができたころは、写真のような「さお」でこぐ十石舟だったそうで、玄武洞側の赤石集落と対岸の二見集落とで運営されていました。
それまで主要産業であった円山川の蜆とりを中止するほど渡船の運営が繁盛していたのだそうです。
やがて戦後になるとエンジン付の船となり、1964年(昭和39)には株式会社「玄武洞観光渡船」が設立されました。
最盛期には、定員57人を最大に6隻の観光船を保有し、年間40万人もの観光客が渡船を利用しひっきりなしに観光バスがやってきたとのこと。
その後、玄武洞公園へ直結する道路が整備され、1970年(昭和45)には無人駅となったことで渡船の需要は少なくなり、1999年(平成11)に渡船会社は廃業し、現在は玄武洞ミュージアムが渡船を引き継いでいます。
渡船をおりると玄武洞ミュージアムの裏側に到着します。
玄武洞ミュージアムは散策の最後に訪れるとして、階段を登って県道を渡り玄武洞公園を目指します。
玄武洞公園は、県道を渡った高台にあり、玄武岩の敷き詰められた石畳の階段を上がっていきます。
階段を登り切ったところに「玄武洞公園案内所」があり、ガイドの受付、ジオパークのパネル展示を見学できる無料休憩所にもなっています。玄武洞公園のガイドは「NPO法人玄武洞ガイドクラブ」に所属し、山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク認定されているジオパークガイドです。
玄武洞に関する地球科学の専門的な知識は去ることながら、見学するだけでは気づけないような見どころの紹介や、ユニークな小ネタも教えてくれます。地学や地質学の専門用語を使わずに楽しく、わかりやすく案内をしていただけます。
◆玄武洞案内ガイド
見学コース
・2洞コース(玄武洞・青龍洞);一人330円(所要時間約30分程度)
・5洞コース(玄武洞・青龍洞・白虎洞・南朱雀洞・北朱雀洞);一人550円(所要時間約60分程度)
※両コースとも団体割引あり
見学・体験コース(2名以上の事前予約が必要)
・“たのしく地球を学ぶモデル火山実験&体験講座と2洞見学コース”;一人660円
※5洞見学コースをご希望の場合は、一人840円 (所要時間 約70~90分程度)
詳しくは、NPO法人玄武洞ガイドクラブ事務局へお尋ねください。
TEL:0796-20-8043 ガイド申し込み専用FAX:0796-22-4774
ホームページ:http://npo-gcgc.sakura.ne.jp/
玄武洞公園には、玄武洞・青龍洞・白虎洞・南朱雀洞・北朱雀洞の5洞があり、玄武洞と青龍洞は国の天然記念物指定にもなっています。
玄武洞公園5洞の名称は、古代中国の神話に出でくる方角の守護神「四神」に由来します。
どうして玄武洞という名称が付けられたのかは玄武洞のガイドさんにぜひ訪ねてみてください。
玄武洞公園には、「玄武岩の玄さん」というキャラクターがいます。
玄さんは、豊岡市のマスコットキャラクターで年齢は玄武洞と同じ推定160万歳なのだそうです。
ちょっと怒ったような顔をしていますが、心根は優しく義理と人情に厚い性格とのこと。
公園を見学する前に「玄武洞の玄さん」と記念撮影をしてみてはいかがでしょうか?
案内所から階段を上がって、正面にある洞が玄武洞です。
玄武洞の玄武岩は、約160万年前の火山噴火によってできたものです。
溶岩の断面のうねり、ぶつかり合った3Dグラフィックアートのような模様が地球の胎動を切り取ったようであり、たじろぐほどの迫力を見せつけています。
玄武洞の洞穴は、江戸時代中期から石材として掘り出されてできたもので、古くは玄武岩を「灘石」と呼んでいたそうです。
玄武洞の景観を魅了している最大の特徴は、玄武岩の「柱状節理」にあります。火山活動で流れ出た溶岩が冷え固まって岩石となる時に規則正しい割れ目をつくりながら冷え固まることがあります。
この割れ目を「節理」といい、柱状に冷え固まった割れ目を地学用語で「柱状節理」と呼んでいます。
地球上にある玄武岩は、磁鉄鉱という鉱物が多く含まれている火山岩の一つで磁石を近づけると引き寄せられます。
玄武洞の玄武岩は他の地域の玄武岩とは異なった性質をもっており、その性質がきっかけとなって地磁気の逆転現象が世界で初めて提唱されました。
方位磁石計(コンパス)のN極が北をさし、S極が南をさすことは多くの人々が知っているとおりです。
地球が誕生してから、これまでの間に何度も地磁気が逆転をしていた、つまりコンパスのN極の針が南をさす時代があったことがわかったのです。
なぜわかったのかは少し難しい話になりますが、玄武洞のジオパークガイドをお願いすれば分かりやすく説明していただけますよ。
地磁気の逆転現象の大発見
地磁気の逆転現象は、1926年(大正15年)に京都帝国大学の松山基範博士が玄武洞の玄武岩に残っている磁性から発見しました。この発見はのちのプレートテクトニクス理論の成立につながりました。
玄武洞の隅に建てられている石碑には、出石町出身の官僚であった桜井勉の文が刻まれています。
山陰線の鉄道工事が終えられたあと寄付が行われ玄武洞公園が整えられたこと、駅が対岸に完成したことにより多くの人が訪れることとなったことなど玄武洞公園が整備された経緯が記されています。
玄武洞の前には、大正時代の撮影された玄武洞の様子を表す絵葉書の写真が展示されています。
観光に訪れている人々の着物姿から玄武洞に魅せられ、昔から多くの人々が見学にこられていたことがわかります。
1925年(大正14)5月に発生したマグニチュード6.8の大地震(北但震災)によって玄武洞公園の柱状節理は大打撃を受けて崩れました。現在の玄武洞の姿は震災で崩れた後の姿です。
この震災で周辺の豊岡市街地や城崎温泉街は壊滅的な被害を受けました。
震災復興には玄武洞公園の玄武岩が多く使われており、城崎温泉街を流れる大谿川の護岸工事にも使われています。
玄武洞公園内の各洞窟を結ぶように散策道が整備されています。
散策道には、そこかしこに玄武岩が敷き詰められていてその断面を観察することができます。
切り取られた玄武岩の断面は、中央から外側に向かって放射状に線状に模様がある石が多くあります。
これは、溶岩が冷えて固まる際にできる模様と言われています。
玄武洞公園は足元も見逃せませんね!
玄武洞から散策路を南に沿って2分~3分歩いたところに青龍洞があります。
玄武洞では雄大な柱状節理の迫力を体感し、青龍洞では流線形の美しい柱状節理を楽しむことができます。
2013年から毎年10月にNPO法人玄武洞ガイドクラブによって「玄武洞・青龍洞ライトアップイベント」が開催されています。
玄武洞・青龍洞ライトアップイベント
闇夜を照らす散策路の明りには「流木」と和紙の原木「楮(コウゾ)木」で作った手作りの行燈(ロジナリエ)が入口から青龍洞まで設置されます。足元の灯りと玄武洞・青龍洞ライトアップは「幽玄の世界」を醸し出し来園者の感動を誘っています。
また、ライトアップ期間中は毎週土曜日に青龍洞前の広場で野外コンサートが開演されます。
楽器が奏でる音色が青龍洞に反射し、他の野外コンサートホールでは体験することができない素晴らしい音響となっています。
【関連記事】玄武と青龍は闇に煌めく(ライトアップイベント)
青龍洞は水面に写る柱状節理の模様が「龍が天に上る姿に似ている」ということから青龍洞と名付られたと伝えられています。
また、青龍洞には「落ちそうで落ちない石」があり、受験生に大人気のスポットとなっています。池の石塔に投銭をして石塔から落ちないと願い事が叶うと訪れた方の間で話題になっているそうです。
青龍洞の近くには、おみやげが買えたり軽食を食べることができる「玄武洞観光センター」があります。
観光センターの展望台からは絶景を眺めることができますのでぜひ行ってみましょう。
対岸の山との間に流れる円山川の上流に広がる盆地が南向きに広がっているのが豊岡盆地です。
約6000年前の縄文時代は、この一面が海だったと言われています。
その後、長い時を経て、円山川の氾濫などによって土砂が堆積し、肥沃な湿地を作り出しています。
その立役者が、玄武洞の玄武岩なのだそうですが、詳しくはジオパークガイドの方に聞いてみましょう!
運が良ければこの場所からコウノトリの観察をすることができるみたいですよ。
いったん青龍洞から玄武洞へ戻ると、白虎洞へと続く玄武岩でつくられた階段があるのでそちらに進みます。
階段を登りきると、右手に白虎洞が現れます。
下から上に向かって帯状に柱状節理がすべて横向きにできています。
柱状節理を手の届く目前見れるのは白虎洞ならではの景観です。
この横向きの柱状節理が「虎の背中」に煮ていることから白虎洞と名付られたそうです。
また、この付近には、ハートの形をした玄武岩の断面を見ることできます。
恋愛成就の「幸せの石」と呼ばれていますので、どこにあるか探してみましょう!
白虎洞の左の階段を登って降りると、南朱雀洞と北朱雀洞が現れます。
柱状節理の模様が「鳥が地面に降りてきている」ように見えるのが南朱雀洞、「鳥が大きく羽を広げて飛んでいる」ように見えるのが北朱雀洞だそうです。
南朱雀洞の右側には、ごつごつした岩肌を見ることができますがこれも玄武岩だそうです。
流れ出た溶岩の先端にあたる部分で、溶岩の表面が急に冷やされて固まっても、まだ内部が熱く、あとから溶けた溶岩が押し出されてできたそうです。
溶岩の先端からわずか数mで柱状節理が現れていることから、節理がつくられた様子がよくわかる場所でもあります。
朱雀洞付近から出口の方に降りる階段があります。
玄武洞公園の散策が終わった後は「玄武洞ミュージアム」にぜひ寄ってみてください。
2018年(平成30)にリニューアルされたばかりのとてもきれいなミュージアムです。
玄武洞ミュージアムでは、玄武洞についてより深く学べるほか、世界から集められた宝石・奇石・化石・鉱物などが多数展示されており、ここでしか見ることのできない貴重な石も展示されています。
かつてこの地域に住んでいたゾウの実物大の全身骨格標本レプリカの迫力のある展示や、生命の歴史が分かる恐竜・ティラノサウルスなどの化石が集められた展示、かばんの町豊岡を作った伝統的工芸品「豊岡杞柳細工」の展示など見どころがいっぱいです。
石に興味がある人はもちろん、そうでない人でも子どもから大人まで楽しめるミュージアムとなっています。
かご編みやアクセサリー作りなどの体験メニューも豊富ですよ。
ミュージアムには、ミュージアムショップやカフェが併設されていて、散策後ゆっくり過ごすことができます。
玄武洞ミュージアム
営業時間:9時~17時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)他はHPに記載
入館料:中学生以上800円、小人(小学生)500円、幼児(4歳以上未就学)400円
https://genbudo-museum.jp/
160万年という途方もない歴史が刻み込まれていることを体感しながら玄武洞公園を散策することができました。
理解することが難しい地球科学の分野ですが、目の前にある圧倒的な空間にいやがおうにも興味がそそられます。
また、玄武洞公園は秋には紅葉、冬には雪景色と季節ごとの風景を気軽に楽しめる場所でもあります。
但馬の地に、玄武洞という世界に誇れる魅力的な場所があることをたくさんの方に知っていただきたいですね。
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