芸術文化の新風が吹き込む交流の町・江原を歩く
豊岡市日高町は、国道が東西と南北に走る「但馬の十字路」と呼ばれる交通の要衝です。その中心に位置するのが、JR江原駅です。
かつては、グンゼなどの工場がミニ工業地帯の様相を呈し、全国から働き手が集まるターミナルとして発展しました。
最近では、演劇を主とした小劇場ができたり、演劇祭のメイン会場となるなど、芸術文化の面で新たな風が吹き始めています。
そんな古さと新しさが混在する町、江原駅周辺を散策してみましょう。
江原駅の改札は橋の上にあり、東口と西口のどちらにも降りることができます。
西口には、豊岡市役所の日高振興局や国指定史跡の但馬国分寺跡などがあります。
今回は、東口方面を散策してみたいと思います。
江原駅の改札を出て東口に向かう階段の踊り場から中田工芸株式会社が正面に見えます。
中田工芸株式会社は、日本で唯一の木製ハンガーメーカーとして有名で、そのクオリティの高さから全国より注文があるそうです。
江原駅は、1909年(明治42)に開業しました。
当時養蚕がさかんだったこの地域では、蒸気機関車の煙によって桑の葉が被害を受けるなどの理由により迷惑施設として駅の位置決定が難航したそうです。
また、1929年(昭和4)から十数年の間走っていた「出石鉄道」の起点駅でもありました。
同鉄道の駅舎は江原駅東口の北側にあり、出石まで11.2kmの道程を35分で結んでいましたが、戦時中に海外の鉄道施設に使用されるため線路が撤収されその後廃止されした。
1997年(平成9)には、駅舎の全面建て替えが行われ、現在の姿になりました。
江原駅東口から徒歩1分の場所にあるのはアーケード型の集合店舗である「サンロード一番街」です。
1978年(昭和53)に開設し、当時は多くの買い物客でにぎわいました。
江原駅東口周辺は、神鍋高原の玄関口ということもあり、アルプス地方の高原リゾートを思わせる町並みに統一されています。
このサンロード一番街の外観は、柱などの骨組みをそのまま外に出す、北方ヨーロッパの木造建築の技法である「ハーフティンバー風」と呼ばれる様式となっています。
国道の整備などで交通量が変わったことや少子高齢化などで客足が遠のき、駅周辺の商店街も閉店が相次いできた状況の中でも
地元で愛される焼き鳥屋さんやレトロな純喫茶、地域の学生さんが通う本屋さんなど今でも根強く営業されています。
2020年に開催された豊岡演劇祭でも、このアーケードがアート作品の場になるなどレトロな商店街の魅力が再発見されています。
一番街アーケードの南側から北側に抜けると、左手前に「バーガーシティ・サンロード店」があります。
バーガーシティは、かつて「100円バーガー」で一世を風靡したフランチャイズチェーン店です。
1998年に本部が倒産した後も個人で営業を続ける店が何店舗かありましたが、現在では唯一残っているそうです。
名物の100円バーガーはもちろん、日高町の特産品とちもちがはさまれた「とちの実バーガー」などオリジナルメニューも豊富にあります。
バーガーシティ・サンロード店
営業時間 11:00~19:00
住所 豊岡市日高町日置22-13
電話 0796-42-3648
https://www.facebook.com/burgercity87/
バーガーシティの向かい側、かつて中規模のショッピングセンターがあった建物の1階には、フリースクール「トイロ」があります。
この施設は、米国発祥の「デモクラティック(民主主義的な)スクール」を参考に、子どもたちが楽しみや生きがいを自ら見つけられる場を目指し2020年6月にオープンしました。
空家が多くなった江原駅前の商店街にもこうして新たな活用方法が見出されてされてきています。
※詳しくはトイロホームページをご覧ください
https://www.kns.hyogo.jp/toiro
一番街から、国道に向かって歩いていくと赤い屋根の印象的な建物が目に入ります。
2020年春にオープンした江原河畔劇場です。
1935年(昭和10)に建てられた木造三階建ての旧豊岡市商工会館を改築しており趣のあるモダンな外観は残しつつ生まれ変わりました。
豊岡市に移住した劇作家の平田オリザさんが主催する劇団「青年団」の本拠地となっており、演劇やワークショップなどが行われています。
2020年9月に豊岡市内の各地で2週間にわたって行われた「豊岡演劇祭2020」のメイン会場のひとつとなっていました。
演劇祭に合わせてバス停も新しくペイントされるなど、江原地域の新たな象徴として拠点施設となっています。
名前に「河畔」がついているように、円山川のすぐそばに建てられています。
劇場前のスロープは、円山川の流れをイメージして作られていて、飾りで置かれている石は地域の子供たちが円山川の河原から運んできたそうです。
江原河畔劇場の中に入ると洗練されたされた空間が広がり、開放的な窓からは美しい円山川の流れを眺めることができます。
1階には、120席ほどの小劇場、2階には稽古やワークショップなどができるスタジオが備え付けられています。
江原河畔劇場
住所:豊岡市日高町日置65-10
電話:0796-42-1155
※公演期間中以外は日曜休館
ホームページ https://ebara-riverside.com/
続いて旧街道方面へ向かうため、江原河畔劇場前の道路沿いを南下します。
交通量が多い道路で歩道もないので通行する際には十分に注意してください。
赤い「くすり」の看板を目印に左へ曲がると、細い路地の入口が現れます。
この路地は「旧街道」にあたり、路地の先には円山川の渡し場があったそうです。
趣のある細い旧街道の路地を歩いていきます。
旧街道沿いには、かつて製糸工場やでんぷん工場、造り酒屋などが林立していたそうです。
旧街道を進むと、当時の友田酒造の酒蔵があり、立派な土壁が往年の様子を今に伝えています。
250年以上前の文政13年創業で現在でも銘酒・雪之梅などを販売しています。
友田酒造の酒蔵は、豊岡演劇祭のときにアート作品が展示され特別に公開されました。
歴史ある酒蔵の内部に、現代のアート作品が組み合わさり独特な空間を生み出していました。
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友田酒造の酒蔵付近から円山川の堤防に上がることができます。
堤防の上からは、江原の町並み、江原河畔劇場、円山川の流れをながめることができます。。
河畔劇場の屋根の向こうの山には、コウノトリ但馬空港の滑走路の構造物もみえますね。
円山川の堤防からいったん旧街道を離れ国道に戻ると、立派なうだつを掲げた家屋があらわれます。
これは旧造り酒屋の表玄関で、格子戸や虫籠窓なども見ることができます。
さらに国道沿いを南下するとすぐ、立派な鐘楼門が目をひく立光寺(りゅうこうじ)にたどり着きます。
戦国武将・加藤清正を祀っていることで知られる寺院で本堂は、1746年(延享3)に建立されたと伝えられています。
毎年7月に行われている「日高夏祭り」は天保年間に、このお寺で清正公の命日に「清正公(せいしょうこう)祭り」を行ったのが始まりだそうです。
立光寺から少し南に進むと散策のゴール地点である荒神社の鳥居が現れます。
728年創建と伝えられている荒(こう)神社。
江原駅周辺の土地を開いたと伝えられる飛田臣高生(ひだのたかお)の祖父・荒人(あらひと)を祀っているそうです。
この地を「善原(えばら)」と讃えていたことから「江原」という地名が付いたと伝えられています。
また、このあたりは円山川と近く、かつて渡し場があったといわれています。
この場所から、旧街道を通って品物が町に運ばれていったのでしょうね。
この地域は、かつて、交易や産業などで地域外からのたくさんの人が集まって栄えました。
商業や交通などの移り変わりにより変遷を遂げてきましたが、近年は、演劇という新たな風が吹き、芸術文化というジャンルで新たな交流が生み出されています。
江原駅周辺は、そんな古さと新しさを感じながら地域の化学反応を楽んで歩くことのできる町でした。