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震災から復興した歴史ある温泉街・城崎の裏通りを歩く

たじま途中下車の旅~城崎温泉駅編~

兵庫県豊岡市城崎町にある城崎(きのさき)温泉は、古くから狭い谷間に開かれ、志賀直哉の小説『城の崎にて』の舞台にもなった山陰温泉の名湯です。
街の中心には大谿川が流れ、柳並木や太鼓橋、三階建の木造旅館が建ち並び独特の町並みを作り出しています。

また、城崎温泉街は1925年(大正14)5月に起きた北但大震災で多くの家屋が倒壊・大火災が発生し甚大な被害を受けました。今の町並みは、この震災から地域の方々の共助により復興が成し遂げられたものです。

今回は、城崎温泉駅から名刹・温泉寺までの道のりを、震災からの復興の足跡を感じながら城崎温泉街の裏路地を通り抜けて歩いてみたいと思います。

城崎温泉駅のホーム

城崎温泉駅は、1909年(明治42)に「城崎駅」として開業、旧城崎町が豊岡市と合併することに伴い、2005年(平成17)から「城崎温泉駅」に改称されました。

改札には、トワイライトエキスプレス「瑞風」の専用ゲートが設置されています。
瑞風は、2017年から運行されているJR西日本の豪華寝台列車で、城崎温泉駅には大阪・京都から下関に向かう山陰下りコースで停車します。瑞風の乗客が列車を降りて観光するのは兵庫県内では城崎温泉だけです。

城崎温泉・開湯1300年

城崎温泉の歴史は古く、今年は開湯から1300年目の記念すべき年にあたり、駅の正面玄関にも記念ののれんがかけられていました。
奈良時代に城崎へ来た僧侶の道智上人(どうちしょうにん)が、難病の人々を救う為に1000日間の修行を行った結果、 720年(養老4)に温泉が湧出し城崎温泉が開かれたと伝わっています。

 

①城崎温泉駅舎

城崎温泉駅舎は、北但大震災で当時の木造平屋の駅舎が倒壊する大きな被害を受けました。
現在の駅舎は、その翌年に防火を目的として建造された鉄筋コンクリートづくりの駅舎として復興した当時の建物として貴重です。後年、瓦葺きの屋根に改造され玄関の入り口には大きなひさしが設けられています。

駅前には、駅舎と一緒に記念撮影ができるように「かに」に見立てたモニュメントが設置されています。(松葉がにの漁期11月~3月限定)

城崎温泉を象徴する下駄の奉納

駅前には、各旅館が奉納している下駄がずらっと並べられている「下駄奉納板」があります。
城崎温泉といえば浴衣を着て、下駄でカランコロンと音を立てながら外湯巡りをするのが人気です。
下駄でも旅館によって鼻緒の色や形などが違っていて面白いですね。

「駅は玄関、道は廊下、宿は客室、土産屋は売店で、外湯は大浴場」と例えられ、温泉街を一つの旅館とみなすことが城崎温泉のおもてなしとなっています。

 

②駅舎温泉さとの湯

城崎温泉といえば外湯巡りです。旅館の中にある温泉のことを「内湯」、外にある共同浴場のことを「外湯」と言い、温泉街にある7つの外湯を巡るのが観光に訪れる方の定番コースです。

駅を出てすぐ右手にある外湯が、「駅舎温泉さとの湯」で、円山川や自然を眺めながら温泉でくつろぐことができます。
入り口の前には、足湯があり電車の待ち時間を、ゆっくり過ごすことができます。

さとの湯
営業時間/13:00~21:00
定休日/月曜日
料金/大人800円、小人400円 (小人は3歳から小学生)

駅通り

城崎温泉駅から駅通り方向に進みます。
この駅通りには、たくさんの土産物屋さんや飲食店、旅館などが軒を連ね多くの観光客でにぎわいます。
また景観をよくするために電線が地中化されているので、電柱もなく、空がとても広く感じられます。

左折ポイント

また駅通りの海産物を販売するお店では、11月から3月の松葉ガニ漁解禁の期間、店頭で松葉がにが販売され紅色に染まります。
そんなお店のひとつ「おけしょう鮮魚 海中苑」を目印に左折して、城崎文芸館に通じる裏通り「文芸館通り」を進みます。

③城崎文芸館

通りを2~3分歩くと城崎文芸館に到着します。

小説家・志賀直哉が短編小説『城の崎にて』で書いたように、城崎には多くの文人墨客が訪れ「歴史と文学といで湯の街」として知られるようになりました。城崎文芸館には、そんな城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を見ることができます。

城崎文芸館
開館時間:9時〜17時
休館日:毎週水曜日、年末年始
住所:兵庫県豊岡市城崎町湯島357-1
電話:0796-32-2575
http://kinobun.jp/

王橋と一の湯

城崎文芸館を出て大谿川沿いの柳通りの方へ進み左折すると、王橋があります。
王橋は、城崎温泉のほぼ中心に位置しており、高さ3mを超える灯籠付の柱や高欄に青銅製の飾り窓や装飾など意匠を凝らした外観を楽しめます。

王橋の先には、外湯「一の湯」があります。
江戸時代にできたこの外湯は、当時の名医・香川修徳が書いた書物により「天下一」の温泉だと賞賛されたことからこの名前がついたそうです。

一の湯
営業時間/7:00~23:00
定休日/水曜日
料金/大人700円、 小人350円 (小人は3歳から小学生)

④城崎温泉街の風景(大谿川と柳通)

王橋から、柳通りの方向を眺めると大谿川と柳並木と太鼓橋など城崎温泉街を象徴する風景をみることができます。
大谿川にいくつもかかる橋は、弓形橋群として国登録の有形文化財に指定されています。
王橋を含めたこれらの橋は、北但大震災からの復興時に建設されたものです。

大谿川の玄武岩

柳通りから木屋町通入り口付近までの大谿川の護岸壁には、玄武岩が用いられています。
北但大震災からの復興の際、同じく震災によって崩れた玄武洞(豊岡市赤石)の玄武岩を船で運び利用したそうです。
規則正しい割れ目の入った玄武岩は、天然のブロックとして家の土台や石垣に重宝されていました。
※現在玄武洞は国の天然記念物に指定されており、玄武岩を持ち出すことは禁止されています。

木屋町通りへ

王橋を渡って進むと、土産物屋や遊技場などが並ぶ城崎温泉街のメイン通り「湯の里通り」になりますが、今回の散策では王橋を渡らず裏通りの「木屋町通り」を歩きます。

木屋町通りは、明治期から多くの家が建ち並んでいましたが、北但大震災でほとんどが崩壊・焼失してしまいました。
復興にあたって、京都木屋町の美しい川沿いの風情をモデルに河川・道路の整備がすすめられたことから、この名前が付いたそうです。

城崎麦わら細工伝承館

木屋町通りに入るとすぐ、北但大震災で焼け残った土蔵を改修した城崎麦わら細工伝承館があります。
麦わら細工は、日本でも城崎温泉だけで生産されている伝統工芸品で、人気の高いお土産物となっています。
伝承館では、麦わら細工の名品を展示しているほか、麦わら細工の体験をすることもできます。

城崎麦わら細工伝承館
営業時間:10:00 ~ 16:00(入館は午後3時30分まで)
電話番号:0796-32-0515
定休日:水曜日(祝日の場合は翌日)

桜の名所・桜橋

麦わら細工伝承館の近くにかかる桜橋は、橋の欄干に桜がデザインされています。
この桜橋から、外湯「まんだら湯」近くまでの大谿川沿いに桜並木が植えられており・春先には桜を楽しむことができます。

春の桜橋からの風景

桜の時期に写した桜橋からの風景です。桜並木と大谿川のコントラストに目を奪われます。
防火用水のために設けられた堰から、水が流れ落ちる音を心地よく感じることができます。

 

木屋町通りを歩く

桜橋をわたると朱色の春日灯籠が等間隔でならんでおり風情を感じながら歩くことができます。木屋町通りは、メイン通りに比べると車通りが少なくゆったりと歩くことができます。
夜には、ぼんぼりに明かりが灯り幻想的な雰囲気になりますよ。桜の開花期間中は特に幻想的で、外湯めぐりの際にはぜひ立ち寄って下さいね。

通り沿いには、ベンチが何か所か設けられていてゆっくり休むことができます。

木屋町通りの建物

木屋町通りから大谿川を挟んで向かい側には、建物が所狭しと並んでいて、そこに行くための各建物専用の橋がかけられています。

これらの建物の中には、かつて検番(けんばん)と呼ばれた芸鼓さんが三味線などを練習する場所があり、通ると三味線の音色が響いていたそうです。現在は、使われなくなった検番の建物だけが残されていますが、改装して期間限定で出店されるポップアップスペースや住居として利用されています。

⑤木屋町小路

木屋町通りを大谿川沿いに進んでいくと提灯が目印の木屋町小路の入り口があります。
「和のにぎわい」をテーマに個性豊かな店舗が軒を連ねる小路となっています。

木屋町小路がある場所は、かつて置屋(おきや)と呼ばれる芸鼓さんなどが寝泊まりする場所でした。木屋町通りは「花街」と呼ばれ、昭和60年代ごろまでは艶やかな光景が繰り広げられていたそうです。

三十三間広場の火伏壁

木屋町小路の外側の一角である三十三間広場には「火伏壁(ひふせかべ)」と呼ばれる防火壁があります。北但大震災からの復興のシンボルとして、また城崎温泉のさらなる発展を祈念して設置されたものです。

震災から復興の際には、歴史ある街並みを元に戻すことに注力するとともに、鉄筋の建物を要所に配置するなど火事が延焼しないように工夫して街づくりが行われたそうです。

三木屋の裏通り

ふたたび、木屋町通りにもどって大谿川沿いをすすむと、長く連なるいい雰囲気の塀があります。
この場所は、城崎温泉の老舗旅館・三木屋の裏庭に面したところになります。
三木屋は志賀直哉が大正の初め療養のため滞在していた旅館で、裏庭を気に入っていたそうです。
ここで過ごした日々をもとに、名作『城の崎にて』が誕生しました。

三木屋旅館の正面玄関です。北但大震災後に復興した昭和二年築の木造建築は、国の登録有形文化財に認められています。

まんだら湯

木屋町通りの終点付近に、外湯「まんだら湯」があります。
道智上人が一千日の間、八曼陀羅経(はちまんだらきょう)というお経を唱え続けたところ、満願し霊湯が湧き出したのが城崎温泉のはじまりとされています。そこから「まんだら湯」と名付けられ、昔から建物は唐破風と呼ばれる建築様式となっています。

まんだら湯
営業時間/15:00~23:00
定休日/水曜日
料金/大人700円、 小人350円 (小人は3歳から小学生)

極楽寺

まんだら湯から歩いて少し行ったところに極楽寺があります。
境内の枯山水の石庭「清閑庭」や、山門・水墨画の襖絵などは見ごたえがあります。


極楽寺の門の片隅には北但大震災のときについたと言われる焦げ跡が残っています。
北但大震災で延焼をまぬがれた極楽寺の門でしたが、火の手が間近まで迫っており一部が焦げてしまったのだそうです。

温泉寺への道

さらに大谿川沿いに進んで、温泉寺方面に向かいます。

城崎温泉元湯

温泉寺に入る手前に、源泉・城崎温泉元湯があり、温泉卵をゆでる体験などもできます。
城崎温泉は、その昔コウノトリが足の傷を癒していたことから発見されたとも伝わっています。
それにちなみ元湯近くにある外湯は「鴻の湯」という名前がついています。

⑥温泉寺(薬師堂)

城崎温泉街のはずれにある大師山に築かれた温泉寺は、城崎温泉を開いたとされる道智上人により創建され、738年(天平10)、聖武天皇から末代山温泉寺の勅号を賜ったとされます。
大師山の山麓にある温泉寺の薬師堂は、見事な彫刻などで飾られています。
薬師堂の南西側には、北但大震災で犠牲になられた方々の供養塔があり毎年5月に供養祭が行われています。

温泉寺(薬師堂)
拝観時間:夏季午前8時30分~午後5時・冬季午前9時~午後4時30分
拝観料:無料

城崎温泉ロープウェイ

温泉寺の本堂までは、歩いて上がることもできますが城崎温泉ロープウェイを利用されると便利です。
城崎温泉ロープウェイは、全国的にもめずらしい中間駅があるロープウェイです。

このロープウェイは関西電力初代社長で、黒部ダム建設を指揮した城崎町出身の太田垣士郎が発案しました。
コンクリート造りの駅舎には黒部ダム建設の技術が持ち込まれ、国の登録有形文化財に認定さています。
ロープウェイの山麓駅付近には太田垣士郎を顕彰する記念館があります。

城崎温泉ロープウェイ
営業時間 
9:00~のぼり最終16:30
定休日 毎月第2・第4木曜日
(但し、木曜日が祝日の場合と年末年始は営業)
※料金など詳しくは、城崎温泉ロープウェイホームページ等をご確認ください。
https://kinosaki-ropeway.jp/

⑦温泉寺(本堂)・城崎美術館

ロープウェイの中間駅「温泉寺駅」でおりると温泉寺本堂があります。
温泉寺本堂では、33年ごとに御開帳されている秘仏「本尊十一面観音立像」を見ることができます。(令和3年4月まで)
また本堂の東側には、城崎美術館(温泉寺宝物館)があり温泉寺や城崎温泉にかかわる多数の所蔵品が展示されています。

温泉寺(本堂)・城崎美術館
拝観時間:午前9時~午後4時30分※但しロープウェイの休業日は休館の場合あり。
(第2第4木曜、祝祭日の場合は除く)
拝観料:各300円・共通券400円

⑧山頂展望台

ふたたびロープウェイに乗ると数分で山頂駅に到着します。
山頂の展望台からは、城崎温泉街、円山川、遠くには日本海を望むことができます。
この場所からの風景は、ミシュランのグリーンガイドにも掲載される世界に認められた絶景です。
城崎温泉街を眺めてみると山と山の間の狭い範囲に、建物が並んでいることがよくわかりますね。

山頂では、展望台のほか、カフェスペース、温泉寺奥の院、遊具のある公園などがあり絶景を眺めながらゆったりと時間を過ごすことができます。

散策を終えて

城崎温泉街の裏路地は、メイン通りに比べると車や人の通りが少なくゆったりと散策を満喫することができました。
また温泉街のあちこちにある北但大震災からの復興の足跡をみると、関わってきた人々の並々ならぬ努力によって現在の城崎の賑わいがあるということを実感することができます。
賑やかな温泉街でショッピングや食べ歩きを満喫した後は、裏通りをゆっくり歩いてみるのもいいですね

たじま途中下車の旅~城崎温泉駅編~散策マップ

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