文化庁移転で再注目!歴史に彩られた京都の豊かな食文化を訪ねて
国宝や重要文化財、世界遺産に至るまで、古都・京都は世界屈指の文化遺産密集地! なかでもannaが注目したいのは、これまで知らなかった食文化です。日本海沿岸から緑豊かな森林、一面に広がる茶畑など、さまざまな景観がそろう京都府では、地域によって景色が変わり、生活が変わり、多彩な食文化が育まれた土地でもあるんです。
2023年には文化庁が京都にやってくることになり関心が高まる今、anna的“京都の奥深い文化”を、風土の異なる4エリアからご紹介します。食の背景にある歴史や豆知識を知れば、京都旅がもっと楽しく、おいしくなりますね♡
1:日本海の恵みが生活に根付く「海の京都」
2:豊かな山と森の恵みが息づく「森の京都」
3:800年前の文化を今に伝える「お茶の京都」
4:かぐや姫伝説発祥の地「竹の里・乙訓」
5:知ってた?文化庁が京都へやってくる!
6:「もうひとつの京都」の食文化体験へ!
■1:日本海の恵みが生活に根付く「海の京都」
京都府の北部、丹後・中丹エリアが“海の京都”と呼ばれています。久美浜湾に琴引浜、伊根の舟屋群、天橋立など、日本海沿いは観光名所ぞろいなので、訪れたことがある方も多いのでは?
日本海といえば、新鮮な海の幸! 京都・福井にまたがる若狭湾で獲れたサバを京へと運ぶ道が“鯖街道”として今も名を残すほど、海の恵みは地域に根付いた食文化へと昇華されています。その一つが、今回紹介する『丹後ばらずし』です。
(1)ハレの日に味わう「丹後ばらずし」
食卓がパッと華やかになるような、美しい押し寿司が『丹後ばらずし』。全国でも丹後にしかない、丹後地方独特の郷土寿司。もともとはお祭りの日に食べる特別なものでしたが、次第にお正月や誕生日など、人が集まるお祝いごとに欠かせない料理になっていったそうです。
味の決め手は、何といっても甘辛く煮付けたサバのおぼろ♡ 丹後でたくさん漁れていたサバを浜焼きで食べ慣れ親しんでいたことから、“おぼろ”にして入れるようになったのだそう。酢飯の間にも、上にも、たっぷりと敷き詰められています。さらにその上には錦糸玉子にタケノコ、シイタケ、カマボコなど、色とりどりの具材をトッピング。
“まつぶた”という昔から伝わる木箱に食材をギッシリと詰め、最後に外枠を取れば『丹後ばらずし』の完成! 冬はせいろで蒸してアツアツをいただくのも、季節ならではのお楽しみなんだそうです。
一説によると、具材をバラバラと散らすように盛り付けることから、その名前が生まれたという『丹後ばらずし』は、生のものを使っておらず、保存食としての役割もあったそう。なにより、みんなでワイワイと囲める料理なので、味わう時間も楽しいですよね!
(2)もっと食べたい♡「海の京都」絶品グルメ
“海の京都”には、サバのぬか漬け『へしこ』や、酢飯の代わりにおからを使った『このしろ寿司』など、海の幸を長く、おいしく食べるための知恵が生んだ郷土料理がお待ちかね♡
もちろん、新鮮な魚介類も見逃せません! 冬は松葉ガニやブリ、真牡蠣、初夏には丹後とり貝に岩牡蠣と、いつ訪れても旬の味覚がお迎えしてくれますよ。
■2:豊かな山と森の恵みが息づく「森の京都」
鬼伝説の残る大江山連峰が広がる中丹・南丹エリア。“森の京都”と呼ばれるこの地域では、山々を借景に並ぶかやぶき屋根の建物、山間を穏やかに流れる小川など、どこか懐かしさを感じさせる里山風景に包まれます。
この森の中には、縄文時代から現代まで、長く地域の人々を支えた栄養食があるんだそう。大地の息吹がギュッと詰まった、力強い味わいのご当地餅です。
(1)素朴で懐かしい森の味「とち餅」
“森の京都”の中でも、特に山村地域で愛されてきた『とち餅』は栃の木の実ともち米を合わせてつくります。一般的なお餅とは違い、ちょっと茶色がかかった色味も特徴です。
栃の実は、栗やどんぐりのような固い木の実。農耕が難しい山間部では、古くから貴重な栄養源として食べられてきました。とち餅の故郷、綾部市古屋地区では、栃の木の群生地のほか、樹齢1,000年ともいわれる巨木もあるんだそうです。
栃の実特有の渋みを抜くため、木灰を使った昔ながらの手法を使い、手間と時間をかけて丁寧に餅づくり。お餅以外にも、あられやクッキーといったお菓子にもアレンジされているそう。
完成した『とち餅』は、そのまま食べるのはもちろん、ぜんざいにするのもおすすめ。滋味深い餅の風味と小豆の甘みが絶妙にマッチするんです♡ 食べ応えもしっかりあって、自然のパワーを直接いただくような気持ちになれるはず!
(2)山の幸満載♡「森の京都」絶品グルメ
森が育む食材は、木の実だけに留まりません。ぼたん鍋などに代表される『ジビエ』や、清流ならではの『川魚料理』など、かやぶき屋根の囲炉裏をみんなで囲みたい、ご当地料理がたくさんあります。
さらに近年では、京都府無形文化財 “黒谷和紙”の原料、楮(こうぞ/桑科の植物)の捨てられていた葉を活用し、新しいご当地餅『楮餅』が誕生。伝統を守りつつ、世界的なムーブメントSDGsを取り入れた食文化の革新にも注目したいですね!
■3:800年前の文化を今に伝える「お茶の京都」
茶の湯文化が開花する以前から、数々の茶園が登場した京都南部・山城エリアが“お茶の京都”。地名を冠した宇治茶はあまりにも有名ですよね。霧がかかる傾斜地一面にズラリと並ぶ茶畑は、約800年前から変わらない景色なのかもしれません。
この場所で抹茶に適した栽培法・緑茶製法が生まれ、今では日常に欠かせないものに。身近すぎて逆に知らない、お茶文化を深掘りしましょう!
(1)抹茶の飲み方は2種類!「薄茶」と「濃茶」
一般的に甘味処などで飲むことができる抹茶は、本来は『薄茶』と呼ばれるものってご存知ですか? 実は、抹茶の飲み方にはもう一つ『濃茶』があり、千利休が活躍した戦国時代には、お茶というと『濃茶』を指す言葉だったそうです。
写真の左が『濃茶』で、右が『薄茶』。とろみが強く艶やかな『濃茶』に対し、『薄茶』はサラリと飲みやすく、表面に細かな泡が見られます。一見すると苦そうな『濃茶』ですが、旨みの強い抹茶が使用されており、抹茶本来の旨み、甘みを感じやすい飲み方になっています。
この地で茶の湯文化や抹茶が発展した理由の一つには、独自の栽培方法“覆下栽培”があります。お茶の葉に太陽の光が当たらないよう育てることで、緑色は鮮やかになり、強い香りとまろやかな旨みがプラスされるんだとか♡ 今でもこの風景は山城エリアのあちこちで見られますよ。
江戸時代には、抹茶の原料である碾茶(てんちゃ)を壺に入れて宇治から江戸まで運ぶ“お茶壺道中”が行われていたほど、愛されてきた宇治抹茶。今も伝統製法を守っているので、『濃茶』『薄茶』をひと口味わえば偉人たちと同じ風味を楽しめる、そんなロマンあふれる一杯ですね♡
(2)文化の礎に!「お茶の京都」の絶品グルメ
宇治田原町は、緑色のお茶をつくる製法が誕生した日本緑茶発祥の地。文化庁認定の“100年フード”にも選定された『茶汁』は、味噌や焼いたニシン、ナス、三つ葉やセリに番茶を注いで食べる宇治田原町の郷土料理です。優雅な茶の湯文化だけでなく、地域全体にお茶文化が根付いていた証ですね。
さらにお茶は食文化の域を超え、多方面に影響を与える存在に。例えば、和食を代表する懐石料理は、もともとは茶事でいただく食事“茶懐石”がルーツ。いろいろなお茶を飲んで銘柄を当てる遊び“茶香服(ちゃかぶき)”なども流行していたそうです。
■4:かぐや姫伝説発祥の地「竹の里・乙訓」
平安時代に誕生し、“日本最古の文学”と称される『竹取物語』。その舞台となったといわれるのが、向日市、長岡京市、大山崎町からなる“竹の里・乙訓(おとくに)”です。
平安京よりも前に日本の都・長岡京があったこの場所は、美しい竹林が印象的。青々と空に向かって高くそびえる竹の優美さに、足を止めずにはいられません。そして竹があるということは、その足元には京都を代表する伝統野菜が潜んでいるんです♡
(1)白く優美な京野菜「京たけのこ」
“竹の里・乙訓”にタケノコが伝来したのは、西暦800年代という説もあります。当時は観賞用として、江戸時代後半からは食用として人々を魅了。タケノコが名産になったのには、乙訓の地質がタケノコの生育に適していることに加え、独自の“京都式軟化栽培法”にあるそう。
“京都式軟化栽培法”では、ワラや草を敷き、土の手入れを欠かしません。成長したタケノコが地上に顔を出す前に収穫するため、淡く美しい色味、やわらかな食感でえぐみの少ない風味が特徴の『京たけのこ』になるんです。
乙訓のタケノコは、あらゆる京都グルメに変化します。ある京料理店では、タケノコの中に柚子と木の芽で風味付けした酢飯を詰めて『竹の子姿ずし』に、おばんざい店では、春を告げる『たけのことふきのたいたん』に。お刺身で食べられるのだって、やわらかな『京たけのこ』ならではの味わいです。
“竹の里・乙訓”を巡るとき、どんなタケノコ料理に出合えるかも、お楽しみの一つにしたいですね♡
(2)次世代に届ける「竹の里・乙訓」絶品グルメ
長岡京市の一部地区には、お盆にご先祖様にお供えするためにつくる、小豆やカボチャ、ナスが入ったお味噌汁『いとこ汁』があります。限られた集落での郷土食ですが、現在は学校給食にも取り入れられ、その味わいを伝えていくことに尽力しているそう。
そして、食を語るうえで重要なのが、西山連峰が育んだ豊富な地下水。大山崎町に茶室を構えた千利休がこの水を使って秀吉にお茶を点てたと伝わる名水は、やわらかくほんのりと甘い口当たり。今ではウイスキー蒸溜所やビール工場が建ち、水のおいしさを全国に届けています。
■5:知ってた?文化庁が京都へやってくる!
京都ならではの風土や歴史など、さまざまな側面から多くの食文化が生まれていましたよね。そんな京都に、もうすぐ文化庁がやってくるんです! 2023年3月27日(月)より、京都での業務開始が決定しています。
(1)文化庁って何をするところ?
文部科学省の外局にあたり、日本の文化・芸術の創造、発展、次世代への継承、世界への発信などを行う国の行政機関です。国宝や重要文化財の指定、世界文化遺産の登録推進、博物館施策まで幅広く担当しているので、知らないうちにいろいろな場面で“文化庁のお仕事”に触れているはず!
(2)なぜ京都に移転するの?
2015年、東京一極集中を改め、地方創生を図るため、政府機関の地方移転が国家プロジェクトとして立ち上がりました。そこで文化庁誘致に手を挙げたのが、豊かな文化財、蓄積した伝統文化を持つ京都。翌2016年には文化庁の移転が正式決定。中央省庁の移転は明治維新以来初のことで、注目度が高まっています。
(3)どんなメリットがあるの?
文化庁が移転するのは、日本最古の警察本部庁舎として知られる『旧京都府警本部本館』。1000年をこえる歴史の中で、伝統文化と最先端の文化が共存してきた京都から、日本文化を世界に発信するとともに、京都から新たな芸術文化が生み出されることが期待されます。
■6:「もうひとつの京都」の食文化体験へ!
今回は食文化の視点から、新たな京都の魅力を知ることができたのでは? いつもよりちょっと足を延ばして、ご紹介した4つの“京都”のおいしい文化体験へ、お出かけしてくださいね!(文/小林梢)
※京都府
※一般社団法人森の京都地域振興社(森の京都DMO)
※一般社団法人京都山城地域振興社(お茶の京都DMO)
※長岡京市
※和束町
※妙喜庵
Sponsored by 京都府、京都府観光連盟