【和歌山市】老舗銭湯を継いだ4代目が守る、SNSで話題の昭和レトロな“愛され銭湯”
「あんなぁ」と明日誰かに伝えたくなる人にスポットライトを当てて紹介する『anna』の連載企画『あんな、ひと』。第9回目は、和歌山市北休賀町の『幸福湯』4代目店主の中本有香さんの活躍と素顔に迫ります。
■和歌山市にある人気銭湯の全貌をチェック!
JR『和歌山駅』から徒歩約15分。閑静な住宅街のマンションの1階に銭湯『幸福湯』があります。
1956年に創業し、老朽化のため2019年に設備を大幅リニューアル。昭和レトロな雰囲気を残しつつ、店主の細かな気配りが詰まった銭湯は老若男女を問わず親しまれています。
大きく“ゆ”と書かれたかわいいのれんをくぐると、黄色の大きな券売機が目に入ります。リニューアル前に現役で活躍していた券売機は、昔ながらの姿が写真映えすると人気なんだそう。
券売機の反対側には青と白のバイカラーがかわいい靴箱があります。ブーツなども入るように高さのある靴箱もあり、店主の配慮が伝わってきますね。
靴を脱ぐと目の前には男湯と女湯の2枚の扉。扉の向こうには今回の主役・中本有香さんが番台から笑顔で出迎えてくれます。入浴料440円(税込)を払って、いざ、女湯へ!
浴室は、窓から差し込む光が明るく広々とした空間です。白色のタイルに青色のモザイクタイルがどこか懐かしさを感じさせつつ、シャワーのハンドルに置かれている真っ赤な桶がモダンな雰囲気を醸し出しています。
お湯の温度は1年を通じて41度〜42度で、幅広い年代の方が心地良い温度で入浴できるよう季節に応じて調節されているのだそう。
通常の『適温主浴槽』のほかに、『電気風呂』や週替わりで入浴剤が入る『ぬる湯』を完備。
筆者が訪れた日は“ラベンダー&カミツレ(カモミール)”の香りで、ホッと落ち着かせてくれる優しい香りが浴室全体に広がっていました。
有香さんの推しは『超強力ジェット風呂』! 強力な水流は疲れた体をほぐしてくれそうですね。
浴室の奥にはサウナもあります。男湯は100度前後、女湯は85度前後に設定。サウナを出てすぐのところに19度の地下水をかけ流している水風呂も! 筆者も次回は地下水の水風呂にチャレンジしてみたい……!
■26歳で銭湯を継ぐ!決意した途端に休業を余儀なくされて……
曽祖父の代から『幸福湯』を営む家系に生まれ、幼い頃からお風呂は銭湯だったという有香さん。両親が番台で見守るなか銭湯で常連さんと一緒にお風呂に入り、小学生の頃には番台に座ってお店の手伝いもしていたそうです。
「大学生の頃まで手伝っていたものの、遊びに行けない時もあるし、掃除もめんどうだなって思っていたんです」と『幸福湯』を継ぐ意思はなく、大学卒業後は大阪で違う仕事に就き1人暮らしをはじめます。
しかし実家を離れて暮らすことで、家族のようにお客さんとにぎやかに過ごしていた日々への恋しさがつのり、半年ほどで和歌山に戻ることを決意。
『幸福湯』の手伝いをしながら職を探している頃、設備の老朽化が問題に。リフォーム費用も高額になることから、ギリギリまで営業を続けて、時がきたら『幸福湯』を閉めるという話が持ち上がります。
このままでは銭湯がなくなると実感した有香さんには、『幸福湯』を守りたいという想いが芽生えたそう。さらに、和歌山に戻るきっかけになった幼い頃の記憶、常連さんからの「銭湯を残してほしい」という声、「やってみたらいいやん!」と背中を押す友人たちの言葉もあり、『幸福湯』を継ぐことを決意します。
ですが、『幸福湯』を守っていきたいと家族に伝えた時、ご両親は大反対! 「最初は喜んでくれるよりもやめといた方がいいって反応だったんです。特に母は、わざわざ大変な銭湯を続けなくてもいいよって感じでした」と当時の様子を教えてくれました。
それでも有香さんの決意は固く、これまで以上に積極的に銭湯に関わることで少しずつ家族から理解を得ていき、その家族からも認められてきた矢先、なんと床下の配管設備が破裂! 銭湯は営業停止となり、いきなり廃業か改修かの決断を迫られる事態に。
家族間で何度も話し合いをした結果、有香さんが『幸福湯』を守っていくことを家族で再確認。半年間のリニューアル期間を経て、当時26歳の4代目『幸福湯』店主が誕生しました。
■常連さんも、新規のお客さんも居心地よく♡
「なるべく昭和レトロな雰囲気はそのままに、『幸福湯』らしさを残したかった」と話す有香さん。半年間にもなる改修期間に行ったのは、『幸福湯』以外の銭湯に行ってみること。
「改めてほかの銭湯に行ってみると、常連さんとのコミュニティが完成している中に初めて入っていくことの怖さに気づいたんです。その銭湯だけのルールなんかもあったりして、間違っていないかなって不安になるんですよね」と、『幸福湯』しか知らない有香さんにとって、ほかの銭湯に行くことで、新たな気づきがたくさんあったそう。
そこで有香さんが目指したのは、常連さんも初めて訪れたお客さんもみんなが楽しめる銭湯にすること。
例えば、銭湯の入浴ルールをわかりやすく解説。ウサギとカエルのかわいいイラストを付けて、初めて銭湯に行くという方でも安心して過ごせる工夫が施されています。
さらに浴室の壁にはクイズを掲示! リニューアルした年にイベントで開催してみたところ好評だったことから、現在では有香さんが月替わりでクイズを考案しています。
常連さんからも「きれいになった湯船に浸かっている間の楽しみができた」と好評なんだそう。
子ども向けに湯船に浮かべて楽しめるおもちゃを用意したり、ベビーベッドの貸し出しなど子育て層が通いたくなる配慮も忘れていません。
もちろんタオル類の貸し出し(有料)やシャンプーやコンディショナーの販売もあり、手ぶらでも安心ですね◎
「まずは気軽に『幸福湯』に訪れてもらって、今まで銭湯に来たことがない人にも常連さんになってほしいですね」と有香さん。リニューアル後にはホームページを開設し、『幸福湯』の公式SNSではイベント情報や混雑状況を投稿しています。
アパレルやキーホルダーなど『幸福湯』オリジナルグッズも販売。しかもデザインは有香さんが考えているのだそう♡
『幸福湯』のSNSを通じてオンラインでも購入が可能で、持っているだけで気分が上がりそうなかわいいデザインは全国から問い合わせがあるのだとか。
ほかにも近隣のゲストハウスでは入浴券を置いてもらったり、店頭で地元の野菜を販売するなど、地域との連携も大切にしています。
■番頭さんってどんなことしてるの?
11時のオープンに向けて、朝は10時ごろから準備を開始。前日深夜の営業終わりに浴室の掃除は終わらせているものの、お湯を張ったり脱衣所を掃除したりと大忙しです。
開店前には、一番風呂を楽しみに続々とやってきた常連さんたちがお待ちかねです。
開店後は、“お客さんとコミュニケーションがとりやすい”と以前の形をそのまま残した番台が有香さんの定位置。「タオル持ってきた?」「お金、ぴったりある?」などと、お客さんに優しく声をかけます。
従業員の方と交代で番台に座りながら、脱衣所の片付けやSNSの更新、グッズのデザイン考案なども行います。
23時30分に営業が終了すると、翌日に備えて浴室を掃除します。掃除後にゆっくりとお風呂に入って疲れを癒し、1日の終わりに家族に今日あった出来事を話すのが明日への原動力になっているそう。
■温かな雰囲気に心も体もポッカポカ
「毎日来てくださる常連さんも多いので、来なくなると心配になるんですよね。連絡先を知っている方であれば、電話して近況を確認することもあります」と話す有香さん。
お客さんがやってくるとすぐに「こんにちは〜」と優しく声をかけ、帰る時には「気をつけて帰ってね!」と人懐っこい笑顔で送り出してくれます。
そんな有香さんに今後の『幸福湯』について伺うと、「常連のお客さんも新しいお客さんも楽しめる銭湯にしていきたい」とのこと。
「人とのコミュニケーションが大好きな私にとって、さまざまな年代の方が交流する銭湯という空間が合っているんです」と語るように、毎日来てくださる常連さんでもプライベートなことまでは踏み込まないようにするなど、お客さんが気兼ねなく『幸福湯』に通えるようにコミュニケーションの取り方にも工夫されています。
寒さが厳しくなるこれからの季節、『幸福湯』で心も体もほっこり温まってみてはいかがでしょうか。
<店舗詳細>
幸福湯
住所:和歌山県和歌山市北休賀町31 幸福マンション1F
電話番号:073-433-4526
営業時間:【月・火・木・金・日】11:00~23:30【土】15:30~23:30
定休日:水曜日
料金:【大人(中学生以上)】440円【中人(小学生)】150円【小人(乳幼児)】80円(各税込)
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『あんな、ひと』では、次回も関西で活躍する女性にスポットライトを当て紹介します。お楽しみに!(取材・文/筒井麻由・撮影/ふかみちえ)
【画像・参考】
※中本有香/幸福湯/anna
※この記事は営業時間外に特別に許可を得て撮影しています。
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