【大阪】遊覧船「御舟かもめ」の船長が日常から離れた最高の時間へご案内
「あんなぁ」と明日誰かに伝えたくなる人にスポットライトを当てて紹介する『anna』の連載企画『あんな、ひと』。
第8回目は、普段見る事ができない視点から大阪の街を案内する遊覧船『御舟かもめ』船長の吉崎かおりさんに会いにいってきました。
■「御舟かもめ」が生み出す非日常の空間
今回の『あんな、ひと』吉崎かおりさんが操縦する『御舟かもめ』は、定員10名の小型の旅客船です。“川に浮かぶ小さなおうち”をコンセプトとして、大阪メトロ谷町線・京阪電車『天満橋駅』すぐの『八軒家浜船着場』を拠点に『水都大阪』を巡ります。
おすすめは、航路や時間を自由に決められる『貸し切りクルーズ』。道頓堀エリアや大阪城周辺などの観光スポットや桜のシーズンには『造幣局』周辺でお花見を楽しむこともできます。
一味違った景色が楽しめる非日常的な空間はこれまでプロポーズの場として利用されたこともあり、なんとその成功率は100%! 20年間で5組の方たちが結ばれたんだそう。
その場に立ち会った船長のかおりさんも「幸せな気持ちになるのはもちろんですが、以前“御舟かもめ”に乗ってくださった方が水上の魅力を知ったうえで、一生に一度の大切な場面にも使いたいと思ってくれることが嬉しい」と話してくれました。
■水辺を好きになったきっかけは建物調査
かおりさん自身が水上の魅力を知ったのは、20歳の時。アルバイトとして入った設計事務所で、大阪の水辺の建物を調査する仕事を担当したことがきっかけです。
「調査の時に初めて川から大阪の街を見て、陸からじゃ分からなかった驚きや発見がたくさんあったんです。街のド真ん中に大きな川があって、かっこいい建物や橋がたくさん残っていて……。今まで知らなかった魅力を知ってどんどん興味がわいてきました」とかおりさん。
働いていた設計事務所の社長が川でのクルーズを趣味にしていて、遊びに誘ってくれたこともあり、かおりさんにとって川はより身近な存在に。
プライベートでも川に触れたいと思ったかおりさんは、なんと川沿いのおうちへお引っ越し。23歳の時には、車やバイクの免許よりも早く船舶免許を取得し、5人乗りの赤い小型ボートを中古で購入しました。
「友達を船に乗せてあげるとめっちゃ喜んで笑顔になってくれるんですよね。それがすごく嬉しくって!」と船のある生活を楽しんでいた当時、知り合いから「水上タクシーをやってみないか」と誘いがあったそう。
そこでかおりさんは「もっといろんな人に喜んでもらいたい、船から見る大阪の街のおもしろさを知ってほしい」と一念発起。仕事を続けながら空いた時間で“水上タクシー”を始めました。
すっかり水辺の生活のとりこになっていた時、かおりさんと一緒で「川の近くで暮らしたい」という思いから同じマンションに住んでいたご主人と出会います。休みの日にはかおりさんの小型ボートで遊ぶうちに仲が深まり、川が繋いだ縁で結婚に至ったそうです。
その後、妊娠が判明。今までのように船の手入れや管理を続けるむずかしさに悩んでいたところ「1人では難しくても、2人だったら続けられるんじゃない?」と、ご主人が船舶免許を取得し、仕事を退職。2009年、船での事業を本格的にスタートさせることになりました。
本格的に事業をスタートするにあたり、まず取り組んだのは事業用の船の準備。熊本県天草地方の海で真珠の養殖作業に使われていた“小舟”を12名乗りに改装して、『御舟かもめ』を開業しました。
■ユニークな企画クルーズが大人気
かおりさんが大阪の川に魅了されて20年以上。『御舟かもめ』は2022年で13年目を迎えます。
現在も開業時に改装した船が現役で活躍しており、土日祝には中之島や大阪城、桜ノ宮を巡る『昼の時間』と、東横堀川水門・道頓堀を巡る『夜の時間』の2つのコースからなる『乗り合いクルーズ』を開催。
さらに「暮らしのいろいろな場面を水上で体験してほしい」という想いから、枚方市にある農園『杉五兵衛』直送の野菜や果物5種類を使った朝ごはん付きのクルーズ『朝の時間』も運航を始めました。水の上で朝日を浴びながら朝食を味わうという優雅な体験が大人気なのだそう。
朝ごはんの内容は、旬の食材を使用しているため1週間単位で異なるとのこと。訪れるたびに違ったメニューを楽しめるので、何度も乗船したくなりますね。
他にも、大阪港の巨大構造物を鑑賞する『ドボククルーズ』や中崎町にある画廊と古本とカフェの店『珈琲舎・書肆アラビク』とコラボし、大阪を舞台とした文芸作品に登場する水辺の風景を解説する『舟読』など、特別な企画を絡めたイベントクルーズを定期的に開催しています。
水上の新たな楽しみ方を提案する、ユニークな企画が人気の『御舟かもめ』。そのアイデアはご主人と2人で行う『かもめ会議』で決めています。
ご主人と意見があわなかった場合には「主人を外に連れ出して、川沿いのカフェなどで再度提案するんです。一度反対された企画も外の気持ち良い雰囲気につられて通りやすくって(笑)」とお茶目な様子も見せてくれました。
■大阪の魅力を110分に詰め込んだスペシャルクルーズを体験
今回は、かおりさんがおすすめする特別なコースを巡るクルーズに、anna編集部が実際に乗船してきました。
船のスタートは大阪メトロ谷町線・京阪電車『天満橋駅』から歩いてすぐの『八軒家浜船着場』です。
約5畳の屋外ウッドデッキと約3畳の屋内キャビンには大きなクッションやテーブルがあり、固定の席はありません。「一つの方向だけじゃなく、いろいろな目線で楽しんでほしい」というかおりさんの想いから好きな位置に座ったり、クッションを動かしてごろ寝するなど、とっても自由。
飲食物の持ち込みもOKなので、たこ焼き器やおでんのセットなどを持ち込んで、お誕生日会や宴会など船上パーティーを楽しむ方もいるそうです。
『八軒家浜船着場』を出発し、まずは『大川』を西へ。重厚なアーチを描く『天神橋』をくぐり、心地よい風を浴びて冒険気分を味わっていると、『東横堀川水門』が見えてきました。
1つ目の水門を通ると、通過した水門が閉まります。2つ目の水門との間で一時的に隔離し、水位が調整されます。
水位の調整にあわせて、ゆっくりと船の高さが変わる感覚はぜひ乗船して味わってみてくださいね!
無事に水門を通過し、『阪神高速道路』の真下を南下していきます。巨大な柱が先まで続く、この場所は水上からしか見えない景色です。この景色を写真に撮りたくて、ルートに組み込まれる方も多いのだそう。
大阪市内にある、現役で活躍する橋の中では最も古い『本町橋』も通過。かおりさんのガイドがあるので、見どころは逃しません!
見慣れた街並みも、船から眺めれば迫力満点です。人通りが多い道頓堀周辺では、橋の上や川べりから船に向かって手を振ってくれることも♡
湊町を抜けて、本日2度目の水門『道頓堀川水門』です。普段は見ることのできない水門が開く瞬間や放水の様子を間近で見ることができて、ちょっとした優越感に浸れちゃいます。
『道頓堀川水門』を通過して『木津川(尻無川)』に入ると、『京セラドーム大阪』の姿が!
かおりさんが「私が20年間飽きずに川を楽しめているのは、川1本、1本で大阪の風景がガラリと変わるところ」と語るように、華やかな道頓堀エリアとは対照的な雄大な景色が広がります。海からも近い木津川エリアでは大きな船が停泊している様子も見かけるようになりました。
一段高くなっている船頭部分に腰掛けると、爽やかな風やスピードを感じられてより開放的な気分になります。足を延ばしてお昼寝をするなど、水上での楽しみ方はいろいろ。
思いのままに過ごしていると『中央卸売市場』を越えて、『堂島川』へ。御堂筋が走る『大江橋』が見えてきました。今回のクルーズの中でも特に橋げたが低い『大江橋』をくぐる瞬間はスリルたっぷり。手を伸ばせば届きそうです。
『大江橋』をくぐり、『大阪市中央公会堂』や2022年に開館した『大阪中之島美術館』を眺めていると、かおりさんが最もお気に入りだという『水晶橋』が登場!
「もともとは可動堰(かどうぜき)として水門のような役目をしていた橋ですが、今は橋としての役割だけをしているんです。歩行者専用なので、ゆっくりと過ごすことができて大好きな橋なんですよ」と推しポイントも教えていただきました。
そして、見覚えのある『八軒家浜船着場』に戻ってきました。
今回は約110分の大冒険でしたが、『貸し切りクルーズ』は50分から利用できます。人気シーズンは桜が見ごろを迎える3月末〜4月ですが、『御舟かもめ』がおすすめしているのは5月頃です。「新緑と爽やかな風が最高!」とのこと。
「水上の良さは、一回船に乗るとわかるはず……。川はみんなのものなんだから、もっと気軽に川を楽しんでほしいですね」と話すように、多くの方に水上の魅力を知ってほしいという想いは、20年以上前に水上タクシーを始めた時から変わりません。
いつもと違った視点で楽しむ大阪の街は、観光で訪れた方はもちろん、長年関西で暮らしてきた方にとっても新たな気づきが多いはず。時間の流れさえ変えてしまうようなゆったりと流れる水上の世界は『御舟かもめ』が生み出す唯一無二の空間です。
ぜひ、みなさんも一度体験してみてはいかがでしょうか。
<詳細情報>
御舟かもめ
電話番号:06-7175-4200
『あんな、ひと』では、次回も関西で活躍する女性にスポットライトを当て紹介します。お楽しみに!(取材・文/筒井麻由・撮影/ふかみちえ)
【画像・参考】
※吉崎かおり/anna
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