絶景を見下ろす駅と潮騒が聴こえる漁村の情景・鎧を歩く
「たじま途中下車の旅」~鎧駅編~
兵庫県美方郡香美町香住区にある鎧地区。
海と山に囲まれ、1912年(明治45年)に鎧駅ができるまで陸の孤島と言われる地区でした。
一方で、鎧の入り江は、風よけ地となり古くから天然の良港として栄えていました。
「鎧」という一風変わった地名は、岩の模様が鎧の袖の部分に見えることから名づけられた山陰海岸の景勝地「鎧の袖」に由来するそうです。
船が主な交通手段だったころは、「鎧の袖」を見ながら寄港するのが日常であったのかもしれません。
それでは、鎧駅周辺を散策してみましょう。
鎧駅は素朴なコンクリート造りの駅舎で、現在は無人駅で改札はありません。
また、無人駅にしては駅の敷地がとても広いことがわかります。
難工事であった余部鉄橋建設時の資材置き場として使用されていたからだそうです。
鎧駅を出て右方向に行くと「たかのすの森遊歩道」があります。
約3kmを1時間の道のりで歩くハイキングコースで途中には展望台があり、余部橋梁や日本海を眺めることができます。
今回は、ホームにもどって散策をすすめていきます。
ホームにもどると、地下に続く怪しげな階段が??
そこには「絶景への地下道(ちかみち)」という文字が!
期待が高まりますね。
地下道を抜けると…
地下道を抜けると、どこまでも続く青い海と青い空、そして鎧漁港の絶景が目の前に広がります。
この景色が見える場所は、現在は使われていない旧1番線ホームで、絶景を楽しむことのできるよう観光客のために残されています。ホームから海を見下ろせる秘境駅として鉄道ファンに人気があります。
テレビドラマ「ふたりっ子」「砂の器」などのロケ地として撮影が行われるなど絵になる風景が鎧にはあります。
天気のいい日は、絶景の見えるベンチに座ってゆっくりするだけでも、次の列車までを楽しめそうですね。
では、鎧漁港へ、この旧1番ホームから直接集落に降りていきます。
旧1番線ホームから、線路に沿って歩いていくと漁港へと降りる道があらわれます。
歩行者専用の集落の路地を降りていきます。
降りる途中にも景色を眺めることができ、つい足を止めてしまいます。
港に向かう斜面には、駅から港まで続くインクライン跡(魚類運搬車の軌道跡)があります。
昭和40年代に車の通る道ができるまでは、外部との交通手段が船と列車しかなかったため、1951年(昭和26)に軌道が建設されました。
ケーブルでつながれた台車が水揚げされた魚介類を運び、列車で出荷されていったとのことです。
最盛期には、三日三晩、大量のサバを積んだ貨物列車が往復したそうです。
鎧駅ができるまで、輸送手段のなかった鎧集落では
狭い土地を切り開いて、田畑をつくり自給自足の生活を営んでいたそうです。
鉄道や道路がとおるまでは、集落の石垣は、海岸から拾ってきたものを積みあげたものだというから驚きです。
現在も、当時のもの思われる石垣が残っています。
漁村特有の焼き板に覆われた家々が並びます。
鎧の集落を抜けると、鎧漁港が広がります。
鎧漁港は、天然の良港として重宝され昔から漁業が盛んだったそうです。
漁港に置かれていたのは、定置網漁業に使われている網です。
魚の通り道を網でさえぎって魚群を囲い網に誘導して、ブリ、イワシ、アジなどを漁獲するそうです。
洗濯ばさみに海藻がつるされていました。
運が良ければ漁村ならではの風景に出会えます。
鎧漁港の隅に行って山側を見上げると、レトロなレンガ造りの水路を見ることができますよ。
これは、小規模な水力発電所跡の水路だそうです。
漁港には、なにやら意味ありげなコンクリートのポールがあります。
電信柱ではなさそうですね…
このポールには、毎年5月のゴールデンウィークごろ、海を泳ぐこいのぼりが飾られます。
こいのぼりが約200mにわたって飾られ、鎧地区の名物となっており青い海をバックに海風を受けて泳ぐ姿は爽快です。
※写真は2019年に撮影したものです。2020年は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により中止となりました。
2019年の鎧の海上こいのぼりの記事
鎧漁港を出て、十二社神社へ向かいます。
集落の主要道路をすこしだけ山の方に向かうと写真のようなT字路があらわれます。
ここを左折して、少し歩いた先にある階段をのぼります。
今回の散策のゴールである十二社神社です。
十二社神社では、毎年10月上旬に日本遺産「麒麟のまち」の構成文化財にもなっている「麒麟獅子舞」が奉納されます。
麒麟獅子舞は、発祥地である鳥取県東部から美方郡各地に伝わったとされ、鎧は最東端の伝承地といわれています。
境内にある大放(おおはなち)神社は、町の文化財で鎌倉末期の建立と伝えられており貴重です。
大放神社の境内には、シイの巨木があり根のこぶが見事で、年輪を感じさせます。
日差しの強い夏の時期は、この巨木のおかげで神社の境内が日陰となり、涼しげな風が流れます。
十二社神社の隅からの風景。高いところに鉄道が走っていることがわかります。
隣の集落にある余部橋梁とほぼ同じ40mほどの高さだそうです。
鎧駅、漁港、集落、インクラインなどを1枚のフレームにおさめることができるため、散策のしめの風景としては最適です。
潮騒を聞きながらのんびりとした時間の中で鎧駅周辺を散策してきました。
鎧駅は、2001年(平成13)に、JR青春18きっぷのポスターに選ばれています。
その時のキャッチコピーが「なんでだろう、涙が出た」という印象的なものです。
無意識に、訪れた人の心を震わせる情景がこの場所にはあるのかもしれませんね。