〈十津川村〉奈良の山奥からジビエの魅力を発信!/ジビエ専門店まると 中垣十秋さん
十津川村からジビエの魅力を発信!
例年、農林漁業に深刻な影響を及ぼしている野生鳥獣被害。日本全国での被害総額は年間155億円にも上り、その内100億円がシカとイノシシによるものです。
近年では被害防止等を目的とする捕獲が中心に行われ、捕獲頭数は大幅に増加し、年間130万頭(シカ・イノシシのみ)が捕獲されていますが、ジビエなどに利用されるのは約1割。残りは廃棄されています。
農林漁業と、農山漁村に暮らす人々を守るために有害鳥獣駆除は必要不可欠だけど、捕獲した命は無駄にしたくない。そんな思いから十津川村で有害鳥獣駆除員として活動するのが、中垣十秋さんです。
中垣さんが猟師の世界に飛び込んだのは、食肉加工に携わる父・英一さんが立ち上げた「十津川じびえ塾」の手伝いをするようになった時。
「当時は “動物を殺す”という嫌なイメージを持っていました。でも活動をする中で、畑を食い荒らしたり、危害を加えたりする有害鳥獣から人を守る活動をしているんだという意識に変わりました」と中垣さん
一方で有害鳥獣の被害状況や猟師の活動を知らない人は多い。鹿肉の唐揚げの出張販売に橿原市へ出かけた時のこと。市街地に住む人の “シカ”といえば奈良公園のシカのイメージも強く、中には「シカを殺すのは野蛮だ」、「サイコパスだ」などと話していた人もいたそう。
「その言葉を聞いた時はすごくショックでした。山にいる猟師がいなくなったら、動物たちが食糧を求めて山を下り、自分たちが暮らす場所も被害に遭うかもしれないのに。だから駆除について多くの人に知ってもらって、猟師や猟に対する偏見をなくしたいと考えました」
中垣さんは高校3年でわな猟の免許を取得。猟師の道に進むことを決めます。駆除活動は、連携する地元猟師から獲物がわなに掛かった連絡を受けて捕獲に向かう。多くても週1回、全く掛からないこともあるそう。
そのため姉の夏紀さんと共に2023年7月、ジビエペットフードのオンラインショップ「JACK」をオープン。ジビエレザー加工会社「JIMAJA」の運営も準備中で、多角的なジビエ利用の普及活動を行っています。
獲物は生け捕り。脚を強度の高いOPPテープでくくり、加工場まで運んで絞める。その後は15分以内に血抜きと内臓摘出を行います。
生け捕りのリスクは高く、シカに蹴られたり、イノシシに嚙みつかれたりする危険性があります。「猟銃を持って捕獲に入っていた人でさえイノシシに足を噛まれることもあるので、かなり危険です」
死んでから時間がたつと、内臓が発酵して臭いが肉についてしまったり、肉が硬くなってしまったり。また猟銃捕獲では体内に銃弾や血が残ることがあり、これも臭みの原因に。全ては “新鮮で臭みのない、おいしい肉を食べてほしい” というこだわりのためとのこと。
2022年1月には加工場の隣に会員制のジビエ料理店を開いた。店名は「まると」。
“十秋を中心に人々が卓を囲んで交流する空間に”という意味を込め、英一さんが命名。店では自身も腕を振るい、新鮮な肉を使った料理を多く提供しています。また村内を中心にキッチンカーで鹿肉を使ったハンバーガーの販売も行っていますよ。
シカ肉は、牛肉に比べて高たんぱくで低脂質(約6分の1)、鉄分は約2倍含まれていながらカロリーは半分以下とヘルシーな食材。イノシシ肉も豚肉に比べて鉄分が約4倍、代謝を助けるビタミンB2も約3倍と栄養価が非常に高い食材となっています。
中垣さんは「きちんと処理を施せば、ジビエ肉はおいしいんです。有害鳥獣駆除やジビエのイメージを変えていくためにもぜひ一度食べてほしいです」と話します。
-ジビエの魅力を伝えることが有害鳥獣被害や駆除活動への理解を深める第一歩になる。
シカに縁深い奈良に暮らす私たちだからこそ今知っておきたいテーマですね。
【出典】農林水産省,2023,「捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況」
※本文中の数値は令和3年/4年度のもの
Profile
中垣 十秋
NAKAGAKI TOAKI
2002年生まれ。十津川村出身の21歳。
県立十津川高校在学中に狩猟免許を取得。父・英一さんが立ち上げたジビエ専門の食肉加工を行う「十津川じびえ塾」で、有害鳥獣の捕獲や解体を手伝う。
現在は活動の傍ら、会員制のジビエ専門店「まると」やYouTubeなどで、ジビエの魅力や猟師の活動を発信する。
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